進捗遅れが許されないのは、ビル建築と宅配便も同じだ。ビルの完成が遅れると違約金が発生しかねず、荷物の遅配は信用失墜につながる。しかもどちらも、いったん進捗が遅れると挽回するのは難しい。前田建設工業とヤマト運輸を例に、進捗厳守の仕組みを紹介する。

ビル建築:前田建設工業
3次元の設計モデルを徹底レビュー、施工前にリスクを洗い出す

 近年、ビルの建築工事を受注するための重要な競争条件になっているのが、工期の短縮である。前田建設工業の曽根巨充氏(テクノロジーセンター TPMプロジェクト推進室 マネージャー)は、「同規模のビル建築なのに、数年前に比べると今は工期が2割ほど短いこともある」という。

 ただし建設会社にとっては、工期を短縮するほど、竣工(工事の完了)が遅れるリスクが高まる。竣工の遅れは、違約金につながる場合もあり顧客の信頼を失うので、なんとしても避けなければならない。そのため、工事の進捗遅れを防ぐ重要性がますます高まっている。

 進捗遅れを防ぐ上で、ビル建築にはシステム開発と共通する難しさがある。それは、施工分野の専門分化が進んだことだ。例えばビルの躯体(骨組み)だけでも、型枠、鉄筋、コンクリートといった専門工事会社が参加する。前田建設は施工管理に加えて、躯体を中心に「施工図」や「製作図」といった詳細な設計図の作成を担当する(躯体以外の詳細な設計は各専門工事会社が行うことが多い)。このとき、専門分化が進んだことで、前田建設の工事担当者が施工段階で起こる問題を詰め切れないことがあるという。そうして、施工段階で例えば「鉄筋の間隔が狭すぎてコンクリートを充填できない」という問題が発生すれば、組み上げた鉄筋を壊して一から作り直すことになる。これが、ビル建築の進捗遅れを引き起こす。

 また詳細な設計の段階では、躯体、外壁パネル、タイル、エレベーター、サッシのように各専門分野で、その設計担当者が細かく分かれる。それらの設計担当者は、「タイルのサイズが決まらないと躯体やサッシの大きさを確定できない」というように互いに密接に関係する。ところが従来は、専門分野が細かく分かれたことで設計担当者同士の調整業務が増大し、互いの専門分野の進捗状況や課題を共有しきれないケースが増えた。これが各専門工事会社による設計書作成に悪影響を及ぼし、ビル建築の進捗遅れが起こる大きな原因の一つになった。

問題なく施工できるか細かく確認

図1●ビル建築における進捗遅れを防ぐ仕組み
ビル建築では竣工(工事の完了)が1日でも遅れると契約上の問題になり得る。進捗遅れを防ぐため、建設会社はさまざまな工夫を講じている。ここでは、前田建設工業における二つの取り組みを示した
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 これらの問題を解決するため、前田建設では二つの取り組みを行っている(図1)。一つ目は、施工前に鉄筋や型枠などの専門工事会社を集め、徹底的に施工図・製作図をレビューすることである。レビューによって施工のリスクや課題を洗い出し、施工時に問題が起こらないようにするわけだ。

 その際には、「BIM(Building Information Modeling)」と呼ばれる3次元CADをベースにしたツールを用いる。BIMでは施工図・製作図から3次元モデルを生成するので、「リアリティーをもってレビューできる」(曽根氏)。例えば躯体の施工図・製作図については、鉄筋同士の間隔がコンクリートを充填できる程度に空いているか、立体的に複雑に交差する鉄筋同士が互いに干渉することで配筋作業に支障が生じないか、といったことを細かくレビューしていく。

 そうして見つけ出したリスクや課題はすべて課題管理表に載せ、実行担当者と期限を明確に定めて、残らず解消する。このBIMによるレビューの効果は大きく、「BIMを使った案件では、進捗遅れにつながる大きな不具合が施工に入ってから見つかることはほとんどない」(曽根氏)。

遅れを目立たせる進捗管理表を共有

 二つ目の取り組みは、前田建設の施工管理担当者だけでなく、専門工事会社を含む施工図・製作図の設計担当者全員で、案件全体の進捗管理表を共有することである(図1下)。その進捗管理表はガントチャートの体裁で、横を時間軸とし、縦に外壁パネル、タイル、エレベーターといった専門分野を並べる。さらに、専門分野ごとの進捗を、折れ線グラフのように結んで表す。こうすることで、遅れている専門分野は折れ線が左側にへこんで目立つ。

 この全体の進捗管理表を共有することで、遅れている専門分野の設計担当者には大きなプレッシャーが掛かるようになった。少しでも進捗が遅れ始めると、密接に関係する専門分野の設計担当者から、「何か問題が起こっているのですか?最終的に間に合いそうですか?」といった問い合わせが入るからだ。これによって、進捗遅れを防ぐ効果が生まれているという。

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