鈴木 慎之介(すずきしんのすけ)
ドワンゴ 研究開発本部 研究開発部 担当部長
(実質開発総指揮)
鈴木 慎之介(すずきしんのすけ) 相変わらず,自宅のお風呂にノートPCを持ち込んで仕事をしています。ところが先日! 長年お風呂PCとして愛用してきたLet's noteが壊れてしまいました…。後継機として購入したのはDELLのミニノート「Inspiron Mini 9」です。裸で,全身から汗をかきながら,PCに向かって仕事,よく考えればシュールかも…。でも気にしない気にしない。
http://d.hatena.ne.jp/shinno/

 動画共有サイトのニコニコ動画の開発を指揮する筆者が,その仕事の傍らに,深夜の喫茶店*1でその様子を書き記す本連載,今回で通算第6回目になりました。前回の「ニコニコ動画開発記(耐)」では,ニコニコ動画(夏)のリリース後,プロジェクトを推進するにあたっての人員不足の辛さ,コミュニティ機能の伸び悩みなど,プロジェクトとして“耐えてきた”時期を書きました。

 今回は,攻めに転じる盛り返しです。自分たちの足下を確認し,腰を据えて,自分たちの信じる未来へつながるニコニコ動画を創っていきます。

ビジョンとロードマップをニコニコ合宿で

 さて,話はぐぐっとさかのぼって2008年7月5日,ニコニコ動画(夏)のリリースを終えたときのことです*2。ニコニコミュニティの失敗を受けた筆者は,反省点を洗い出したい,今後のニコニコ動画はどうあるべきか考えたい,ユーザーとともにどう進化していくかというビジョンをきっちり持ちたい,それらを共有したい――そんなことを思っていました。

 とはいっても現実は厳しいものです。ニコニコ動画のスタッフは日々顔を合わせており,会話もしているのですが,目の前の作業に忙殺されがち。特にビジョンのような大きいテーマは,じっくり議論する時間を取れないでいました。

 そこで,合宿を実施しました。休みの日を利用して,泊まりがけで国内の比較的涼しい某所にメンバーと出かけます。普段の仕事からいったん離れて,それぞれの想いを胸に,ニコニコ動画の将来,ビジョンなどを,3~4人の規模で長時間議論します。これらの議論をもとに,これからのニコニコ動画が目指す方向と,2008年末までのロードマップを策定することが狙いです。

 環境が変わるとインスピレーションもわくものなのか,驚くほど様々な意見が現れました。議論も活発で,なんだかいい感じです。その議論の中で,以前からのニコニコ動画開発メンバーの中で重要なキーワードとして認識していたものが再び現れました。

同じ時間に感じる何か

 そのキーワードは「共通体験」です。一言で説明すると「リアルタイムで,たくさんのユーザーに,同じ体験をしてもらう」というもの。このような体験が,次の文化,メディアを創出するのではないかという議論が2~3年前からありました。

 この議論の過程で,「疑似リアルタイム」というテーマからニコニコ動画が生まれました。動画を見ている時間は別々なのに,あたかも多くのユーザーと一緒に動画を見ているように感じる…“あたかも”の部分が疑似です(図1)。

図1●「疑似リアルタイム」の概念。動画を見る時間は別々でも,動画の中での盛り上がりなどはコメントによって共有できる。あたかもいろいろな人と同時に動画を視聴している気分になる
[画像のクリックで拡大表示]

 この疑似リアルタイム性は,技術的にもユーザーの利便性的にも様々な利点がありました。一概にだめだというものではありません。でも,同じ時間に同じことをする「真のリアルタイム」による共通体験をする必要があるのではないかという案が出ました。

 その案の実現方法の先駆けとして,いくつかすでにリリース済みの機能がありました。一つは2007年12月25日から開始した「ニコニコ生放送」です。リアルタイムなストリーミングと,いつものコメント機能を組み合わせたものです*3。回数を繰り返すごとに同時視聴するユーザーは増えていき,そこから得られた様々な結果はニコニコ動画内のユーザーに対して共通体験をする試金石となりました。

 もう一つは(RC2)で導入した時報です。正式には「ニコ割」と呼びます。2008年3月からは,同じ仕組みでゲームの配信をする「ニコ割ゲーム」も実施しています。これも,賛否両論はありますが,同じ時間に共通体験をするものです。

 メンバーは考えました。生放送やニコ割といった,「同じ時間の共通体験」を,「ニコニコ動画」というサイトそのものに融合させる時期が来たのではないかと…。

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