野村総合研究所(NRI)で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”における経営者・担当者の視点で、考慮するべきことや、効果的な情報化のノウハウなどを解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第37回)は、供給過多になっている成熟市場で、しかもライフサイクルが長い製品・商品を扱っている場合は、勝ちに行くよりも「死なない戦略」を考えるべきだと指摘しました。

 しかし現実には、情報システムに投資して傷口を広げるダメな“ユーザー企業”を数多く見てきました。典型的なものが、ポイントカードや顧客管理、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)に関する投資です。

“隠れた借金”がボディーブローに

 小売業やサービス業の“ユーザー企業”がポイント制度を始めると、時間の経過とともに、“隠れた借金”のように発行済ポイントが蓄積していきます。さらに、顧客管理・ポイント管理などのために投じたIT(情報技術)投資やその維持費が、コスト要因としてボディブローのように効いてくることがよくあります。

 「死なない戦略」を考えるべきなのに、逆に“死期”を早めてしまうとすれば、残念なことです。

 明確な差異化戦略があり、それを顧客管理やポイント管理などの情報化で支援できれば良いのですが、現実には、同業他社が横並びでポイント制度を導入しているケースもよくあります。この場合、単に価格を下げる以上に、“隠れた借金”やITコストに苦しめられることになります。

 特に、商品・製品・サービスの差異化が極めて困難な業態・市場では、このコストを使って別なことを考えるべきです。例えば、ガソリンスタンドです。どこでも売っているガソリンは同じなのですから、残念ながら、立地と価格以外の差を多くの消費者は感じてはいません。

 情報システムを構築して「顧客のオイル交換時期をポイントカードで記録して、次のオイル交換を推奨する」といったことを支援したとしても、そのIT投資に見合った効果があるとは考えにくいのです。こういう業態・市場では徹底的なコスト削減にこそ努めるべきで、情報化投資もコスト削減効果を最優先に考えるべきでしょう。

独自システムにこだわるよりコスト削減を

 顧客管理以外の分野でも、情報化で勝とうとか、情報システムによる合理化で勝負しようといった考えが、思いがけず窮地を招くケースがあるのです。顧客を囲い込もうと考えて始めた各種のサービスが、重いコスト負担のわりに大した効果を生まないことはよくあります。新たな販売チャネルを開拓するつもりで始めたインターネット上のウェブサイトがトラブルやクレームの引き金になることもあり得ます。

 成熟市場では、競合他社の中にベンチマークすべき相手が必ずいるはずです。下手に情報化で先行しようとするよりも、相手が情報化で打ってくる施策を「いかに早く安くまねするか」を考えたほうが得策かもしれません。その相手が取引しているITベンダーを自社でも活用するという選択肢、あるいは、そのITベンダーのまねをすることが得意な別のベンダーを探して、同業の数社で“呉越同舟(ごえつどうしゅう)”の共同委託するといった方法もありえます。

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