野村総合研究所(NRI)で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”における経営者・担当者の視点で、考慮するべきことや、効果的な情報化のノウハウなどを解説する。(毎週月曜日更新)

 前回(第35回)では、日本の情報化に関する国家戦略が私たち日本人の豊かさに直結しない問題に触れました。その一因は、工業化時代の成長戦略をそのまま情報化時代にも適用し、大手コンピュータメーカーを頂点としたピラミッド構造ががっちりと出来上がったことにあると、私は見ています。

 今回は角度を変えて、日本の国民性の観点で工業化と情報化を考えてみます。

“シロウト”が情報システムに口を出す

 例えば、自動車産業を見た時、クルマの機能、性能、デザインなどについて“シロウト”が何かを言っても、そのまま製品開発に反映されることはありません。安全性、快適性、工場での生産性など、シロウト考えでは及ばない観点があります。ですから、利用者も自動車メーカーも監督官庁も、みんな“プロ”の技術者に任せるべきだと考えています。

 一方で、情報システム産業を見た時、情報システムの機能、性能、デザインなどについてシロウトに大きな発言力があります。安全性、信頼性、開発・保守の生産性など、シロウト考えでは及ばない観点・・・かと思いきや、“ユーザー企業”の中の権力者が「私は聞いてない」「自分は反対だ」「おれは責任を持たない」と叫べば、それまでの検討内容はどうにでも曲げられます。

 日本では、プロであるはずのシステムエンジニア(SE)という名の技術者が、その資質を持たないことも多く、これが“ユーザー企業”の中の権力者が幅を利かす根本要因になっています。

 “ユーザー企業”も、コンピュータメーカー・IT(情報技術)ベンダーも、監督官庁も、クルマと違って、正真正銘のプロ技術者が必要だとは考えていないようです。まさか「何かの間違いがあっても死傷者が出るわけではないから」という理由ではないとは思いますが。

 もっと高度なプロの技術者を指す「ITアーキテクト」(関連記事)という言葉や職種も出てきてはいますが、まだ一般化するには至っていません。これが日本の情報化の現状であり、工業化との大きな違いです。

みんなで工夫・改善する日本の強みが裏目に

 日本の工業化の成功要因は、事業モデルよりも「業務モデル」の完成度にあったのではないでしょうか。欧米の工場では“考える人”と“作業する人”が別々でしたが、日本の工場では、誰もが考え、誰もが工夫や改善のアイデアを出します。平社員から経営者まで、現場で現物を一緒に見ながら議論できるのが、日本の製造業の強みです。

 この業務モデル構築の成功体験がそのまま、情報システムのうち「業務システム」と呼ばれる分野に持ち込まれたようです。誰もが考え、誰もが工夫や改善のアイデアを出せます。昨日までの作業工程を今日すぐに改善することで成功してきた日本企業は、情報システム構築についても、昨日までの検討内容を今日すぐに改善できるかのように、システム要件をころころ変更してしまいます。これは製造業では強みになったかもしれませんが、業務システムでは非効率になってしまいます。

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