iPadを分解し、その無線関連実装を分析する今回の企画。分析を依頼した大手携帯端末メーカーの技術者との会話形式で話を進めていく。第3回は、GPS(全地球測位システム)アンテナを取り上げる。GPSは、GPS衛星からの1.5GHz帯の信号を受信し、端末の位置を測定するシステムだ。背面のほとんどが金属でできているiPadでは、アンテナを配置できる個所が限られるため、どうしても他のアンテナの近くに置かざるを得ない。そのための設計上の苦労が見て取れる。

3Gアンテナと重なる位置にあるGPSアンテナ

iPadで使われているGPSアンテナの印象はどうでしょうか

 民生用のGPSアンテナは1.5GHz帯の電波を受信します。1.5GHz帯の場合、アンテナの大きさは比較的小さくて済むはずなんです。ところが、ここで使われているアンテナはかなり大きいものです(写真1)。

写真1●雑音対策に苦労が見えるGPSアンテナ
3Gアンテナ1と重なる位置にあるGPSアンテナは、3Gアンテナ1が放出する電波の影響をまともに受ける。このため、雑音対策にかなり苦労したようだ。
[画像のクリックで拡大表示]

面積を大きくすれば、利得が大きくなるのでしょうか。

 いえ、アンテナの素子の面積は、共振周波数に依存します。ですから、むやみに大きくすると低い周波数で共振してしまい、望みの周波数で共振しなくなります。このGPSアンテナが大きいのは、隣接する3Gアンテナ1と結合が発生して共振周波数からずれちゃうんで、それを合わせるためにわざと面積を大きめにしている可能性があります。

GPSアンテナは、送受信用の3Gアンテナ1と重なる位置にあります。3Gアンテナ1が送信する信号の影響を考えると、受信専用の3Gアンテナ2の方と重ねた方が有利と思えるのですが。

 3Gアンテナ1の方は送信を任せるので、比較的大きな面積をとっています。一方の3Gアンテナ2は受信用なので、割り切って小さい面積になっています。大きなGPSアンテナをこの小さい3Gアンテナ2に近接させてしまうと成り立たなくなってしまうので、あえて大きい3Gアンテナ1の方に置いて何とかしたかったのかなという印象です(写真2)。このほか、モジュールの配置など、実装上の意図もあったのかもしれません。

写真2●GPSアンテナの配置
[画像のクリックで拡大表示]

3Gの送信信号の影響を抑える苦肉の策

 ただ、そのせいで、実装にかなり苦労したように見受けられます。例えば、GPSアンテナと基板をつなぐコネクターの全体が電磁シールド(電波吸収体)で覆われています。普通はこういうことはしません。モノづくりの観点から見ると、組み立てが難しくなるからです。

 このように吸収体を貼った理由は、3Gアンテナ1から送信される電波がすべてGPSアンテナにかぶってしまうため、GPSの感度が悪くなるからと推測できます。

GPSにはLNA(Low Noise Amplifier)は使われていませんか。

 どうやら使われていないようです。GPSは受信用だけなので、LNAで増幅するという手もあるはずなんです。しかし逆に、LNAでノイズが増幅される可能性もあるので、単純にLNAを使えば良くなるというものでもありません。

 こうした理由から、iPadのGPS性能はあまりよくないかもしれないですね。国内メーカーの普通の携帯端末に比べて、屋内で窓から離れるとすぐにGPSの信号が取れなくなるといったことが起こるかもしれません。

 ただ、iPadはこれだけきょう体が大きく、手を触れにくい個所にGPSアンテナがあるので、その分有利とも言えます。

GPS以外の3Gや無線LANも含めて、アンテナを手で覆うとかなり影響が出ますか。

 はい、著しく感度が劣化します。

最近はiPad向けに様々なカバーやケースが出ていますが、それらの素材と思われるプラスチックやレザーは大丈夫でしょうか。

 多少の劣化はありますが、金属や人の手に比べるとほとんど影響しません。ただ、水を吸ったレザーは電波を遮りますので注意した方がいいかもしれません。