ゼロを1にするのがプログラマ、1を100にするのがデザイナ

 デザイナの目線から見ると「プログラマ達はもっと世に出ていい」と矢野りん氏は語る。「彼らは世の中を変えていくカッコいい人たち。なのに、プレゼンが下手」。

 興味深いのは、次の一言だ。「ゼロを1にするのがプログラマ。1を100にするのがデザイナだと思う」(矢野りん氏)。Androidアプリケーションのように、日常に密着して使われるプログラムでこそ、デザインは非常に重要な意味を持つ。そして、iPhoneに比べると、Androidアプリケーションはデザインが必要となる余地が大きい。デザインによってAndroidアプリは生きも死にもするのだ。

 Simejiの開発は、プログラマとデザイナの共同作業という意味でも興味深い試みとなった。例えば、「ソフトウエア・キーボードのキートップ外枠」をどのように実現するか、という課題があったとする。プログラマから見れば、デザイナがグラフィックス素材をすべて提供してくれた方が楽である。ただし、プログラムにより描線を出力する方が、グラフィックス素材の作り方が素直になる場合がある。こうした場合分けをしながら、プログラマとデザイナが協力しつつ、Simejiの開発は進められている。

 Simeji 3.Fでは、一部のポップアップ・ウインドウを表示する際、イージング(緩急、「タメ」を付けたアニメーション効果)により「少し膨らんでから通常サイズに戻る」というアニメーション効果を付けている。このようなアニメーション効果も、デザイナとプログラマの密な協力により開発している。

  矢野りん氏は、自分の立場をこう表現する。「私は絵描き。Simejiはadamrockerさんのものだと思っている」。

個人のプロダクトだから出せるスピードと個性

 adamrocker氏と矢野りん氏は、Simejiを個人プロダクトとして作り続けている。ビジネスにすることは考えていない。

 キーボードのレイアウトや、機能群の取捨選択など、Simejiは独特のセンスが貫かれている。ユーザーの意見を取り入れて開発チームで議論するようなやり方では、この開発スピードは出ない。

 前述したように、Simejiは「変な日本語入力ソフト」として進化してきた。それだけではなく「ニーズにはすべて対応しようと思った」(adamrocker氏)という意欲的なソフトでもある。例えば「フリック入力」のキートップとガイドがある。フリック入力で、どの方向に指を動かせば所望の文字を入力できるのかを、キートップに表示する。「自分としてはシンプルなキートップの方が好き。指が操作を覚えているなら、全部”白”のキートップにするのもカッコいい。しかしニーズがあれば、そこは対応しようと思う」(adamrocker氏)。

 記事執筆時点のSimejiのバージョンは、「3.F」である。奇妙なバージョン表記だが、これは16進数を採用したためだ。16進数でFの次はけた上がりになる。つまり近いうちに、Simeji 4のリリースが来るということらしい。

 新しいSimejiは、どのような“変なソフト”に進化するのだろうか。「楽しみにしてください」とadamrocker氏は笑った。

adamrocker氏
adamrocker氏のアイコン
矢野りん氏
矢野りん氏

星 暁雄(ほし あきお)
コモンズ・メディア株式会社 代表取締役
星 暁雄(ほし あきお)ITジャーナリスト。メディア・アーキテクト&アドバイザー。ジャーナリストとしてイノベーティブなソフトウエア全般に関心を持つ。これから求められる新たなメディアのアーキテクチャの構築を志している。新たなメディア・コンテナに求められる機能の一つを実現したインターネット・サービス コモンズ・マーカーを開発、公開している。