アビーム コンサルティング
プロセス&テクノロジー事業部 プリンシパル
After J-SOX研究会運営委員・事務局
永井 孝一郎

 前回は日本版SOX法(J-SOX)1年目の総括と2年目以降の展望を説明した。今回は少し視点を変え、J-SOXに続く大波となる国際会計基準(IFRS)がJ-SOXに与えるインパクトについて考えてみたい。

IFRSはJ-SOXと性格が全く異なる

 2009年以降、IFRSにかかわるWeb、新聞、雑誌での記事掲載や関連セミナーの開催が毎日のように行われている。ただ、一部の大企業や経理担当者を除けば、一般企業において強い関心を示している人は必ずしも多くない。

 どちらかというと、J-SOXに熱心に取り組んだ企業ほどIFRSについては慎重になっているようだ。J-SOX対応の経験から、制度が完全に固まらない段階から手をつけると情報収集のために余計な時間を取られ、試行錯誤で無駄な作業が発生してしまうことを嫌っているのである。

 この判断はある意味、もっともなことではあるが、一方でJ-SOXとIFRSとは制度の性格が全く異なるという点を見逃してはならない。

 J-SOXは先例が米国SOX法しかなく、しかも、それは“失敗事例”だった。このため、日本では法制度化以前から反対意見や制度の緩和要望が強かった。加えて、J-SOXは国内上場企業に限定された特異なルールであり、制度の詳細や運用については金融庁が独自に決めることができた。

 これに対してIFRSは、文字通り国際的な規格であり制度である。すでに100カ国以上が導入しており、1~2年後には150カ国を超えると言われている。現在検討が進んでいる改訂版IFRSについては、世界最大の経済大国である米国と(現段階ではかろうじて)第2位の日本も導入することが事実上決まっている。つまり調整事項は残っているものの、すでに世界の大多数の国で運用されている制度であり、我々はすぐにでも検討に着手することが可能である。

 なお、米国がIFRSを導入するうえで調整すべき未確定事項は、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が進めている「MOU(Memorandum of Understanding)プロジェクト」において2011年6月までに決定することになっており、日本もこれに準ずる方向である。

J-SOXの導入とは比べものにならない苦労が待ち受ける

 日本企業にとって、IFRSの導入にはどれほどの手間がかかるのか。J-SOXの導入とは比べものにならない労苦と経営インパクトが待ち受けていると見るべきだろう。

 典型的な例としてはまず、制度の基準が手の届かない海外で決定され、英語でリリースされることが挙げられる。また、単体決算では会社法および税法ベースの国内基準が併用される見込みであることも大きな労苦となる。

 前者では、日本語でも分かりにくい会計基準が英語で、しかも解釈の幅が広い原則主義に基づき記載される。このため、ASBJ(企業会計基準委員会)などが行うであろう翻訳には多くを期待できないだろう。J-SOXでもそうだったが、海外から輸入された基準書などを基に書かれた日本語文章を、具体的かつ正確に理解し説明することは難しい。結局は原文に改めて当たるか、専門家に教えてもらうことが必要になる。

 比較可能性を高めるために同業の海外企業の公開資料を参照するときも、当然ながら原文に当たらざるを得なくなる。頼みの綱となる監査法人にしても、独立性の観点から真に実務的な相談には乗ってくれない可能性が高い。

 後者のIFRSと国内基準の二重管理については、会計の専門知識とともに事務作業量が問題となる。J-SOXにおいて内部統制評価の対象となる会計ルールや決算・財務報告プロセス、あるいは他の業務プロセスやITの評価上でも大きな影響がでてくる。

 ここで、米国で株式公開している日本企業がどのような苦労をしたかが参考になる。米国会計基準(US-GAAP:Generally Accepted Accounting Principle)は日本基準(J-GAAP)に比べると、IFRSに近いといわれているからだ。

 米国で上場している日本の大企業は、四半期ごとに米国基準で決算開示するだけのために数十人から100人以上の要員体制を敷いている。人員体制を見ただけでも、単にいくつかの決算修正仕訳を入れて米国基準に直すというレベルの話でないことがお分かりいただけるだろう。日本企業が今後、日本基準とIFRSの両者に対応するためには、企業規模や子会社数にもよるが、現在の決算体制を大幅に増強しなければならなくなるということだ。

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