エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知

 2010年1月,ラスベガスで開催された家電展示会「2010 International CES」では,米グーグルと米アップルという主役2社が不在の中,これまで脇役に過ぎなかった自動車メーカーの米フォード・モーターが話題をさらった。CEOが基調講演に登場し,運転席のインタフェースを徹底的に「スマートフォン化」した新システム「MyFordTouch」を発表したのだ。

 同社は2007年から,車内ITシステム「SYNC」を米マイクロソフトと共に提供している。今回のMyFordTouchは,SYNCを軸に運転席周りのハードウエアも作り直した。

テレマティクスからの脱皮

 これまでも米ゼネラル・モーターズ(GM)の「OnStar」など,「テレマティクス」という自動車向け通信システムがあった。これはナビゲーションや緊急連絡が中心で,ITはアクセサリとしてくっつけた「おまけ」であった。

 しかし今回のフォードの試みでは,IT機能の優先度が大幅に高められている。同時に,運転のための基本機能とIT機能が安全に共存するように,作られている。速度計の両側に,燃費などの車両関連情報と,ナビゲーションや電話操作などのIT関連情報を表示するミニ・ディスプレイが付き,ボタン操作が可能だ。

 SYNCは,音声コマンドによる操作機能を持つ。今回はその機能を利用し,音声でTwitterにつぶやきをアップロードする仕組みが搭載された。ネット接続にはユーザーの携帯電話回線を利用する。各種アプリもユーザーのスマートフォン経由でダウンロードできる。サードパーティ・アプリの数はまだ少ないが,SDK(software development kit)を用意して増やす予定という。

 いわば,ユーザー体験の向上を最優先した「ダッシュボードのiPhone化」である。さらに,その設計コンセプトはIT分野でおなじみの「オープン・アーキテクチャ」である。

米自動車産業の新たな強み

 それで思い起こされるのが米テスラ・モーターズだ。シリコン・バレーを本拠とする同社は,完全電気駆動の高級スポーツ・カー「ロードスター」を2009年に発表した。ネットにつないでソフトをアップデートしたり,好きなエンジン音をダウンロードしたりといったことが可能だ。その話を聞いたとき,「着メロみたい」,「車輪のついたコンピュータだな」という感想を持った。

 フォードでは,まだせいぜいダッシュボード周りの照明の色をカスタマイズできる程度だが,同じ方向を目指して一歩を踏み出したと思える。

 石油会社の影響力もあって,米国の自動車業界は,ハイブリッド車では日本に一歩出遅れた。しかし石油会社とのつながりが強いブッシュ政権からオバマ政権に代わったことでその呪縛を逃れた。自動車業界は,「シリコン・バレーを体内に抱えている」という事実を,「獅子身中の虫」としてでなく,独自の強みとして活かしていく決意をしたのだと感じている。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO
 NTTと米国の携帯電話ベンチャNextWaveを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 毎年,もっと英語でブログを書こうと年初の決意をするのだが,守れたことがない。最近はさらに,Twitterで用が済んでしまい,日本語ですらブログをあまり書かなくなってしまった。今年はなんとかしたい。
出典:日経コミュニケーション 2010年2月15日号 p.75
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。