サービス・プロバイダにとって,サードパーティ開発者との関係構築は自社サービス開発上の極めて重要な要素となってきている。APIの公開やサンドボックスの提供などの開発環境のオープン化は,自社サービスに開発者を巻き込むために欠かせない要素だ。そうすることで多くの開発者を巻き込み,サードパーティ発の優れたアプリケーションを自社サービスに組み込むことを狙う。

(日経コミュニケーション編集部)


水野 秀幸/情報通信総合研究所 副主任研究員

 現在サービス・プロバイダにとって,サードパーティ開発者との関係構築は自社サービス開発上の極めて重要な要素となってきている。

 周知の通り,API(application program interface)の公開やサンドボックスの提供などの開発環境のオープン化は,自社サービスに開発者を巻き込むために欠かせない要素だ。サービス・プロバイダは,開発プラットフォームと呼ばれるアプリ開発のための環境を整備し,ある程度の自由度を与えて開発者へ提供している。そうすることで,結果として多くの開発者を巻き込むことに成功し,サードパーティ発の優れたアプリケーションを自社サービスに多く組み込んでいる(表1表2)。

 一方で,開発者にとっては,開発のための情報量という視点も重要だ。一連のAPIを含むSDK(software development kit:開発キット)を提供するサービス・プロバイダは,開発者向けの情報提供や開発アイデアの提供を狙いとして,オンライン,あるいはリアルな場での「開発コミュニティ」を充実させている。開発者にとっては,オープンな環境や開発したものを走らせるプラットフォームだけではなく,優れたアプリを開発するための情報源やサポートの充実もポイントである。

 米アップルのiPhoneや,世界最大のSNS(social networking service)となった米フェースブックの「Facebook」などは,優れた開発者を多く獲得したことで成功した代表的な事例である。さらに最近ではSNSの市場拡大のために,国内でも「mixi」を提供するミクシィや「モバゲータウン」を提供するディー・エヌ・エーなどが,サードパーティとの連携を図り,またNTTや英BTなどの通信事業者も開発者とタイアップを図る動きがみられる。「伝統的」という形容が一見ふさわしい通信業界のこのような動きは注目に値するだろう。

 ここからは国内外で開発者との協業を進める業界について,具体的な取組と開発者との関係を紹介しながら,サービス開発のトレンドをみていきたい。

表1●モバイル・アプリの主要な開発環境とコミュニティ
表1●モバイル・アプリの主要な開発環境とコミュニティ
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表2●SNSの主要な開発環境とコミュニティ
表2●SNSの主要な開発環境とコミュニティ
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モバイル・アプリで開発者を開拓したアップル

 アップルのiPhone 3GSは世界中で大ヒット商品となっている。米アップルインサイダーの記事によると,米国でiPhoneを独占供給するAT&Tの2009年第3四半期の加入者の伸びは200万で,AT&Tとして過去最高の成長率と記録した。このうちの約128万台がiPhoneへの加入とされている。

 アップルのテレビCMでもおなじみの通り,iPhoneでは多くの便利でスタイリッシュなアプリが使えることを消費者にアピールしている。これらのアプリはサードパーティによって提供されており,アップルは開発者との良好な関係を築くことで,今のビジネスモデルを作ってきた。アップルのリリース(2009年11月)によると,10万以上のアプリが利用できるという。

 ところが,2007年6月に米国で初代iPhoneが発売された頃は,アップルはiPhoneの開発に対して様々な制約をかけていた。実はアップルの場合,SDKの公開は事業戦略ではなく,開発者からの強い要望を受けてのものであった点が面白い。重い腰を上げ,SDKの配布を開始したのは2008年3月のことだが,アップルはSDK公開後4日間で10万の利用があったとしており,開発者サイドがiPhoneやモバイルへのアプリ提供をどれほど心待ちにしていたかが伺える(表3)。2008年7月の2代目となるiPhone 3G発売と同時に,アプリケーションのマーケットプレイス「App Store」も開設され,iPhone 3Gは大ヒットした。

表3●モバイル・アプリ市場における大手企業の動き
SDK:software development kit
NDA:non-disclosure agreement
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 現在,iPhoneは1000以上の様々なAPIを公開しており,オープン化をますます進めている。一方,App Storeはアプリが登録されるためにアップルの審査を通過しなくてはならい点や,開発言語もCの拡張言語であるObjective-Cを採用している点が,開発者にとって一見取っ付きにくく,このあたりのオープン化についてはさらなる期待もされているようだ。

 なお,グーグルなどオープン・ハンドセット・アライアンス(OHA)が普及を押し進めるAndroidは,オープンソースOSとしてiPhoneのオープン化に先駆けて2007年11月に発表され,このこともアップルのSDK公開を後押ししたと考えられる。また,iPhoneを追う形で,モバイル・アプリ市場は開発環境のオープン化とマーケット・プレイスが続々と登場している。特にAndroidは,アプリ・ストア「Android Market」へのアプリ登録を基本的に無審査とし,開発言語もJava SEを採用するなど,開発者の参加のハードルが低いことが特徴的であり,iPhoneとの競争が今後ますます注目される。

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