前回まで,データセンターは大切なサーバーの安全な預け先となる施設で,監視や運用代行などのサービスが用意されていることや,実際にデータセンターを利用するとしたら費用がいくらぐらいかかるのかといったことを説明してきました。

 今回は,ハウジング先の選定から運用に至るまでの具体的な作業手順を住まいの引っ越しにたとえて説明していきます。転居する場合に引っ越し先が決まったら,契約や引っ越し業者の手配などを進めるのと同様に,ハウジング・サービスを利用する場合も契約や回線利用の手続きなどが必要になります(図1)。

図1●ハウジング・サービスを選定し,運用に至るステップ
図1●ハウジング・サービスを選定し,運用に至るステップ

手順その1【見学】

 新築のマンションなどでは,入居希望者が入居後のイメージをつかめるように,モデル・ルームを設けています。そこを訪れることにより,具体的な間取りを確認したり,素材の材質や設備,コンセントやスイッチの場所などを把握したりできます。

 同じように,データセンターによっては見学会や設備の説明会を実施しています。大切なサーバーを預ける場所が,どのような所で,どんな設備を備えているのかなどを体感できるチャンスです。機会を見つけて,参加してみることを勧めます。

手順その2【項目チェック】

 住まいの引っ越し先を検討する際は,立地条件や構造のほか,例えば大型冷蔵庫を置くスペースが台所にあるか,収納スペースは十分かといった,広さや間取りが気になることでしょう。また,コンセントの場所や電力の契約アンペア数の上限はどれくらいかなど,電源を気にされる方がいるかもしれません。

 データセンターの場合は,ラックの数やレイアウトが広さや間取りに相当します。また,電源回りでは,給電電力だけでなく商用電力の系統数や自家発電設備の有無などについても確認することが大切です。具体的には,次のような点をチェックするとよいでしょう。

<データセンターのチェックリスト>
●ラック回り
 □必要なラック数を確保できるか
 □ラックの持ち込みが必要か
 □搭載機器の重量は許容範囲内か
●電源回り
 □機器の消費電力は給電電力以下か
 □商用電力の系統数は複数か
 □自家発電設備があるか

手順その3【契約】

 住まいの引っ越しでは,ここに住みたいという物件が見つかったら,契約を交わします。そして,通常は入居当日もしくは数日前に,鍵が渡されます。

 データセンターでも,要件を見たす最適な利用先が見つかったら,契約を結びます。データセンターの場合,鍵に当たるのは入退出システムです。データセンターは内部に設置された機器を守るため入館を厳重に管理しており,立ち入る際に事前の入館申請が必要だったり,各種認証を受ける必要があったりします。

 認証にはさまざまな方法があります。例えば,コールバック認証と呼ばれる方式では,データセンターが利用者から入館申請を受けると,事前に登録された連絡先に電話をかけて身元確認をします。さらに入館時には写真付き身分証明書,具体的には写真付き社員証や運転免許証,パスポート,写真付きクレジット・カード,外国人登録証,学生証などで本人確認をします。

 データセンターによっては,携帯電話やUSBメモリーなどの持ち込みを禁止していることがあります。そうした場合,手荷物の中身を目視で確認したり,厳重なケースでは金属探知機による持ち込み検査を行ったりします。

手順その4【回線利用の手続き】

 希望の住まいが決まり,家主と契約を結んだら,固定電話やインターネット回線の移転手続き,もしくは新規契約をしますよね。

 データセンターの場合も,それと同様に回線サービスを受けるための手続きが必要です。データセンターによっては,データセンター自身が提供している回線とは別の回線を利用できることがあります。その場合は,直接キャリア(回線業者)と回線利用契約を結びます。そして,利用する回線に関する情報をデータセンターに提供します。

手順その5【機器搬入/構築・設定】

 いよいよ入居日になりました。住まいの引っ越しでは,自分で荷物を運ぶ方もいるでしょうが,多くの方は引っ越し業者を手配し,荷物を運んでもらうことと思います。引っ越し業者には輸送だけではなく,オプションで梱包や開梱の作業も依頼できることがほとんどです。

 データセンターへの機器の搬入や設置も,引っ越しと大差ありません。利用者が自分で搬入し,独自に設置してもよいですし,ベンダーに作業代行を依頼しても構いません。ベンダーに任せる場合は,スケジュールに余裕を持って搬出・搬入や設置作業の手配を進めることが大切です。データセンターによっては,搬入時に利用者の立ち会いが必要なこともありますので,事前によく確認しておいてください。

 サーバーなどの機器を設置,設定する際には,工具や電源延長ケーブル,モニター,キーボード,マウス,机,椅子,ラベル・プリンターなどが必要になることがあります。これらを貸し出し備品として用意している気の利いたデータセンターもあります。事前に貸し出し備品を確認して,必要なものを利用できるよう申し込んでおくとよいでしょう。

 システムが正常に動作することを確認したら,データセンターへの“入居”は完了です。以降は,契約したデータセンターが利用申し込み内容に応じて,責任もってシステムを監視,運用してくれます。


こぼれ話:クラウドはデータセンターを抽象化

 「クラウド」というキーワードが話題になっています。クラウドとは,まさに雲のようなぼやけた抽象的な表現で,言葉の定義にはあいまいなところがあります。一般には,ネットワーク上にある多数のサーバーから成るシステムを,そのサーバー群を意識することなく利用できるサービス形態のことだといわれています。

 仮想化がコンピュータ・リソースを抽象化して複数の論理資源を生み出す技術であるのに対して,クラウドはネットワーク技術を駆使してデータセンターを抽象化し,仮想的なデータセンターを生み出す技術といえます。サーバーやストレージの仮想化,ネットワークの仮想化,そしてデータセンターの仮想化と,大規模なシステム全体を仮想することで,「雲」のような大きなリソース・プールが形成されます。それを多数の利用者が柔軟に使用できるのです。

 クラウドはデータセンターの一つの利用形態ともいえます。アプリケーション・サービスを載せて月額の課金で提供したり,サーバーの基盤を従量制の課金で提供したりするデータセンター事業者が増えています。当社でも,Lotus Notes/Dominoを皮切りに,各種アプリケーション・サービスを提供していく予定です。


高知尾 眞樹
リコーテクノシステムズ ITマネージド本部 EMS運用センター RGシステム運用部 統合ヘルプデスクグループ リーダー
 RGシステム運用部は,リコー・グループの電話運用からサーバー運用までを幅広く担当する部門。リコー・グループの従業員約7万人のITインフラを日々維持,運用している。統合ヘルプデスクグループは,リコー・グループへの問い合わせを一元的に受け付ける窓口。データセンターを中心に全国25拠点に分散配置されたインフラ管理用の各種サーバーの運用も受け持っている。