いよいよ、生活者起点のサービス・イノベーションの時代へ

 民主党政権が発足し、「国民の生活が第一」のキャッチフレーズが謳われるようになった。政権構想の5原則には、政治家主導、政策決定の内閣一元化が打ち出され、省庁縦割りやタテ型利権社会の是正と、ヨコ型絆社会、地域主権が前面に打ち出されている。

 そして、子供手当てや年金・医療の改革、中小企業対策、求職者支援、最低賃金の引き上げなどの生活者支援策が目白押しに提案されている。

 実現すれば素晴らしいことであり、ぜひ実現を目指していただきたい。しかし、多くの人々が懸念するように、財源とともに、これらを実現する社会や経済の仕組みの再構築、新しいプロセスのデザイン、生産性と付加価値を高め、経済の成長力と競争力を高める具体的なシナリオは、まだこれからである。

 この政権運営と、生活者への支援をつなぐ、実現主体の再構築とサービスの内容が最も重要であり、その実行が新しい社会や産業の形成であり、これまで語ってきた「価値共創社会」実現への取組みである。

 ここでは、生活者起点のサービス・イノベーションがキーワードであり、生活者が受け身の需要者や、支援・扶助の対象にとどまることなく、自ら主体的に参加交流型、共生共創型の営みを行える社会と経済の実現が重要である。

 こうした意味からも、いよいよ「サービス・イノベーションの世紀」が訪れつつあり、「サービス・イノベーション推進委員会」のメンバーも、ますます新たな流れを具現化するとともに、色々な成功事例やイノベーションの萌芽を整理し、多くの皆さんと共有する中から、新たな時代への取り組みを進めていくことができればと考えている。

 従って、この連載も、前回に引き続き、具体的な成功事例を取り上げつつ、その背景と実現方法、そして、その展開や応用の可能性などを中心に取り上げていきたい。

いま元気な小売業、全日食、成城石井の取り組み

 不況下にあって、多くの製造業や流通小売業は価格競争による、消費者への需要喚起に注力する道を歩んでいる。ディスカウント競争や、PB(プライベートブランド)商品の開発、小売り業態のディスカウントストアへの転換などが急ピッチで進んでいる。しかし、それは必ずしも生配販(生産・配送・販売)の業務プロセスの見直しや、コスト構造の改革を伴って進んでいるとは言えず、産業の疲弊とサービスレベルの低下をもたらす懸念を含んでいる。

 こうしたなかで、価格競争を脱し、品ぞろえや価格政策、店頭オペレーションやシステム活用によって差異化を図り、収益向上を実現している元気な小売業も存在している。これら2社はともに食品スーパーであり、地域密着型、大衆型スーパーの全日食チェーン(ボランタリーチェーン)と、輸入品や上質商品をそろえた成城石井である。2社を取り上げた理由は、元気な小売りの成功事例を紹介するとともに、小売りサービスの基本的な考え方とその実現施策を発信することによって、様々な企業のサービスへの取り組みの参考にしてもらうためだ。

 フューチャーアーキテクトでは、この目的で、全日本食品の齋藤充弘社長と成城石井の大久保恒夫社長のお2人による、「元気の出る小売業セミナー」を9月10日に日経カンファレンスルームで行った。有償のセミナーであったが、小売業に加え食品製造業、システムサービス企業、コンサルタントなどの出席が多く好評であった。

 今回は全日食チェーンの説明を中心に行うが、最初に両社の共通した特徴を列記しておく。

 まず第1は、経営トップが、商品やオペレーション、データ分析に基づく品ぞろえや情報発信に大きな関心を持ち、自ら情報共有をリードする役割を果たしている。

 第2に、お店に来店する限られた顧客の枠を超えて、他店の顧客情報や、地域の生活者のニーズを幅広く捉えることで、前述したそれぞれの品ぞろえや店舗の役割提案を顧客ニーズに対応して打ち出しているのが特徴である。

 第3に、店舗運営や品ぞろえのポイントを明確にし、お薦め商品を絞り込んでアピールを行っている。全日食の「GO・GOアイテム(お薦め100商品)」、成城石井の「128(お薦め128商品)」はともに、価値ある商品をお得な価格でPOP(店頭販促)や説明パネルでアピールして提案している。こうした商品が売り上げの30%前後を占めることで、顧客へも明確なメッセージを発信するとともに、店舗オペレーションのポイントが明確になっている。

 第4には、店舗運営や情報活用、品ぞろえ、従業員の教育に、情報システムをうまく活用している点である。特に全日食の自動発注システムは大きな成果を上げており、「新・商品施策」と呼ばれる商品の見直し、生鮮商品のセントラル加工での品質向上策、情報に基づく品ぞろえや、売価設定の評価システムなどと連動して効果を高めており、これからの小売業システムの1つの方向を示すものといってもいい。

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