温暖化ガス削減の中期目標とその達成費用に注目が集まっている。そんな中、京都議定書の削減目標の達成に海外から約1兆円分の排出枠を購入することになるとの試算が流布している。この数字の真偽はどうなのか。

 電力各社は8月までに、2008年度の「CO2排出原単位」を2種類、発表した。各社が1kWh発電する際に排出したCO2の量を示す値だ。

 電力は業界目標を達成するため、CDM(クリーン開発メカニズム)などの排出枠を購入。北海道電力と沖縄電力を除く8社は、入手した排出枠のうち、政府に無償で供出した分を反映した原単位を初めて発表した。

 例えば東京電力は、入手した排出枠のうち2480万tを政府に供出。排出枠反映前には0.418kgの原単位が、反映後は0.332kgになる。東電は同時に2009年3月期決算に、同月までに投じた排出枠購入費用として349億円を計上した。

 そんな中、「日本は京都議定書の目標達成に、海外から大量の排出枠を買う。その費用は1兆円」―。そんな報道が目に付くようになった。

見通し立たぬ排出枠需要

 現在、政府は京都議定書の目標達成のため、基準年(CO2は1990年)比6%の温暖化ガス削減目標のうち、1.6%分を約1億tの排出枠の購入で賄う計画だ。既に政府は排出枠の売り手との間で、約9510万4000tの売買契約を結んだ()。

図●主な買い手が公表している排出枠契約実績
図●主な買い手が公表している排出枠契約実績

 一方、鉄鋼メーカーも電力と同様、排出枠を購入している。最新の2008年の発表によると、鉄鋼各社による売買契約量は5900万t(日本鉄鋼連盟発表)。電力は約1億9000万t(電気事業連合会発表)になる。電力8社が政府に供出したのはこの一部だ。

 「排出枠購入費用は1兆円」との数字は、政府と電力、鉄鋼による契約量約3億4900万tに、石油業界の契約量を加味して「3000円弱の排出枠市場価格を掛けた数字が独り歩きしている」(環境省)と考えられる。

 ただ、排出枠市場関係者の多くが「日本の買い手はもっと安く契約している」と口をそろえる。「東欧の排出枠が7ユーロ(938円)から10ユーロ(1340円)。CDMの排出枠は5ドル(475円)から3000円以上だが、日本の買い手はCDM事業単位の契約を好むので1500円程度の契約が多い」(金融関係者)。仮に平均単価を1500円とすれば、日本は5300億円程度の売買を契約済みとなる。

 電力関係者は「まだ排出枠を買い増す」と認めるが、政府は目標購入量の1億tにめどをつけた。「鉄鋼もめどが立った」(政府関係者)との見方が強い。そう考えると「1兆円」はかなり過大な試算といえる。

 しかし、原子力発電の稼働状況によっては、電力は想定以上の排出枠の購入を迫られる可能性がある。今後の排出量の推移によっては、政府が買う排出枠も1億tでは済まない。そうなれば、「1兆円」も大げさではない。

 1兆円の大台に乗るか否かはともかく、これほど多額の排出枠購入費用が、税金や電力料金の形で国民負担になる。問題は、こうした事実に対し国民の理解が進んでいないことだ。中期目標の費用負担を議論する前に、2012年までの目標達成に必要な負担について、政府は詳しい情報を発信すべきだ。それから初めて、これまでの温暖化対策の反省を踏まえた中期目標のあり方を議論すべきだろう。

出典:日経エコロジー 2009年10月号 14ページより
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