青野 慶久 氏
サイボウズ 代表取締役社長
青野 慶久 氏

 ベンチャーが成功する確率は,よく「せんみつ(1000社に3社)」という言葉で表現される。文字通り新たに開業した企業のうち0.3%しか生き残れないという意味であり,起業家として成功を収めることの難しさを表している。「これから起業したい人へアドバイスをするとしたら『やめておけ』と言います。アイディアやタイミングがよほど良くないと成功しませんから」。そう話すのは,サイボウズの青野 慶久氏だ。

 青野氏は1997年に,高須 賀宣氏(前サイボウズ代表取締役)や畑 慎也氏(現サイボウズ・ラボ代表取締役)と一緒に「サイボウズ」を設立した。サイボウズは,グループウエア「サイボウズ Office」や「サイボウズ ガルーン」がヒットして順調に成長。2006年には東証一部上場を果たした。数少ない成功例となったのである。

 青野氏は大学を卒業して松下電工(現パナソニック電工)に入社後,わずか3年で辞めて起業した。起業した経緯について青野氏は「自分の力でグループウエアを世の中に広めたいという思いがあり,そのための手段として会社を作りました」と話す。「大企業から脱出したいという思いも少しはありました」(青野氏)。

 起業当時,青野氏は26歳。マーケティング担当として市場開拓に明け暮れた。雑用も多い。「最初は,掃除や備品の買い出しも全部自分たちでやらなければいけませんでした」(青野氏)。不眠不休で倒れかけたこともあったがつらさは感じなかったという。

 起業家としてのやりがいを実感できるのは,自分の思いが世間に認められている実感が持てたときだ。「1回目の発注が来たときや,初めて黒字化したときの喜びは一生忘れないでしょう」(青野氏)。

 その一方,起業家としての苦労は「会社が大きくなるにつれて増えていく」と青野氏は話す。一番大変だったのは,社員の退職が相次いだこと。ちょうど青野氏が代表取締役に就任した直後で,精神的にショックを受けた。

 落ち込みながらも,会社に残った人が生き生き働けるようにと人事制度や育児介護休暇制度の改善に取り組む。その結果,最近になって辞めた人が戻ってくるようになったという。「今では社員が辞めるのを歓迎できるようになりました。外を見て成長して,よければまた戻って来いよと。社員の成長も起業家の喜びの一つです」(青野氏)。

贅沢好きは起業家に向かない

 最後に,起業家に必要な素質は何か,青野氏に質問した。「まず,打たれ強さと,ポジティブな思考回路が必要です」(青野氏)。起業したばかりのころは,新製品説明会を開催しても参加者は2~3人だった。「たとえ1人しか参加してくれなくても,1人来てくれたと喜べるくらいポジティブでないと起業家は務まりません」(青野氏)。

 次に,節約家であること。「当たり前のことですが,黒字を出すには売り上げ以上に経費を使わなければよいわけです。削れる費用は何でも削るという経済観念は,絶対になくしてはいけません」(青野氏)。贅沢をしたければ起業家にはならない方がいいと青野氏は指摘する。青野氏は,東証一部上場企業のトップとなった今でも,自転車で通勤し,出張の際は1泊5000円程度のホテルに宿泊しているという。

お仕事解説:起業家

情熱があれば,1円でも起業できる

 起業家とは,自ら新しい会社を創業する人のことである。「アントレプレナー」とも呼ばれる。「会社を創業する」というと難しそうなイメージがあるが,2006年5月に施行された会社法で,会社設立に必要な出資額の制限が撤廃された(それまでは株式会社で1000万円,有限会社で300万円を出資する義務があった)。このため,現在は情熱さえあれば,たった1円でも起業できる。

必要なスキル

  • 打たれ強さとポジティブな思考
    起業家は,新しい事業を立ち上げるにあたり,様々な逆境に直面する。簡単にめげたりしない打たれ強さ,厳しい局面をポジティブにとらえることができる思考回路が求められる。
  • 倹約家であること
    会社経営上の課題に常にあるのは,経費削減だ。削れる経費はとことん削る,卓越した経済観念が求められる。
出典:ITpro Magazine 2009.Spring号 p.71
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