江崎グリコのオフィス向け菓子直販事業「オフィスグリコ」が軌道に乗りつつある。一見すれば、「富山の置き薬」の菓子版であり、目新しさはない。しかし舞台裏では、単価が安く購買頻度も低い菓子で利益を出す困難に挑んでいる。数々の業界常識を覆し、ブルーオーシャン(未開拓市場)を切り開いた。 (文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2007年6月号掲載>

プロジェクトの概要

 景気拡大が続くなかでも個人消費は回復していない。流通の現場では激しい価格競争が繰り広げられている。消費財メーカーは、流通の要求に応じて、新商品を出し続け、身を削りつつ価格を下げなければならない。一方で、菓子メーカー大手の江崎グリコが、10年越しで、既存の流通網に頼らない独自の販売経路構築に成功しつつある。オフィスで「置き菓子」を直販する「オフィスグリコ」である。1997年から検討を始め、2002年3月から本格展開。2007年3月末には、東京や大阪などのオフィス街の8万5000カ所に菓子箱を設置し、約26億円を売り上げるまでに成長した。ほかの菓子メーカーも同様の事業を手掛けるが、大きく成長するには至っていない。グリコは、テスト販売に3年間を費やし、単価の安い菓子の少量販売でも利益を出せるち密な物流・情報システムを確立した。

スタッフは台車を押して1人につき1日30カ所のオフィスを巡回し、箱の菓子を補充する。巡回先の従業員と会話して信頼関係を築けるかどうかが、代金の回収率などに影響するという (写真:竹内由美子、以下同)
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 「置き薬」は、江戸時代から続く日本古来のビジネスモデルだ。江崎グリコが2002年から展開する「置き菓子」サービスの「オフィスグリコ」もこの延長線上にある。ただし、薬とは違い、菓子の単価はたった100円。賞味期限も短い。グリコは、この条件で利益を出す困難に挑んでいる。


 オフィス内に薬箱のような箱(リフレッシュボックス)を設置し、「ポッキー」などの菓子を入れておく。オフィスの従業員は、好きな時に箱から菓子を取って、100円玉を箱上部の貯金箱に入れる。グリコのスタッフが台車を押してオフィスを巡回し、代金回収と商品補充を行う。


 週に1度の巡回で回収する売り上げは1カ所当たりわずか1000円足らずだ。これを細かく積み重ねたオフィスグリコの売上高は約26億円(2007年3月期見込み)で、前年比3割増と急成長している。競合の菓子メーカーも同種のサービスを展開しているが、苦戦している状況だ。


 オフィスグリコも事業全体ではまだ赤字だが、50ある拠点(販売センター)のうち、開設から3年が経過した拠点の多くは、既に営業利益ベースで黒字化している。1センター当たりの商圏は半径1km程度で、設置数1800箱が基準。商圏内で箱の密度が高まり、利用者の認知度が高まれば、安定的に利益を稼げるというわけだ。


 実務全般を取り仕切るのは、オフィスグリコ推進部本部統括マネージャーの相川昌也である。前オフィスグリコ推進部長の佐藤弘成とともに、事業の企画段階から10年間かかわってきた。


オフィスグリコ推進部本部統括マネージャーの相川昌也。模型飛行機が趣味で、オフィスグリコで使う台車も自ら設計し図面を起こした

 オフィスグリコの売上高は、江崎グリコ単体の売上高(同期見込みで1335億円)の2%弱にすぎない。相川は、「売り上げを増やすことだけを考えると、既存の流通経路を強化したほうがいい」と説明する。


 それでも、メーカーにとって消費者と直結した販路を持つことは悲願である。事業化の発端は、1997年に社長の江崎勝久が打ち出した「消費者接点を多様化する」という方針だった。


 相川自身にも苦い思い出がある。オフィスグリコにかかわる前の96年に、ポッキーなどの菓子を食べ切りサイズの小袋に詰めた「ピックパック」というシリーズを手掛けた。相川は、店頭のレジ横などで小袋をぶら下げて売る画期的な陳列方法を考案した。

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