著者:日本OSS推進フォーラム
デスクトップ普及戦略検討タスクフォース 主査 飯尾淳

日本OSS推進フォーラム
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 「日本OSS推進フォーラム」は,日本の主要IT企業が政府との協力のもと,オープンソース・ソフトウエア(OSS)の活用と普及を目的として結成した団体です。日本OSS推進フォーラムには,デスクトップでのOSS活用の普及を目指す作業部会である「デスクトップ普及戦略検討タスクフォース」が設置されており,筆者はその主査を務めています。

 日本OSS推進フォーラムにおける,デスクトップOSSの普及に向けた活動は,現タスクフォースの前身である課題抽出タスクフォースから数えて4年めになります。これまで「OSSデスクトップ普及を阻害する要因の分析と解決に向けた取組みの提案」や「OSSデスクトップ普及促進に関する提言」を報告書にまとめ,公開してきました。

 タスクフォースには,ユーザー企業,メーカーやインテグレータ,シンクタンクからメンバーが集まっています。メンバーは,それぞれの立場から,オープンソース・ソフトウエアを企業のデスクトップに導入するための取り組みを行ってきました。

 この連載では,タスクフォースのメンバーが有志が交代で,デスクトップで使えるソフトウエアや,具体的な利用事例を紹介していきます。

メリットはコストとカスタマイズ

 オープンソース・ソフトウエアとは,ソースコードが公開されており,自由に改変して再配布できるソフトウエアです。デスクトップ向けのオープンソース・ソフトウエアには,オフィス・ソフトのOpenOffice.org,WebブラウザのFirefoxやChrome,メール・クライアントのThunderbird,フォトレタッチ・ソフトのGIMPなど,さまざまなものがあります。

 デスクトップでオープンソース・ソフトウエアを使うメリットは何でしょうか。

 一つはコストです。オープンソース・ソフトウエアには,非常に高い機能を持ちながら無償あるいは低コストで利用できるものがたくさんあります。例えばOpenOffice.orgはMicrosoft Officeとほぼそん色ない機能を持っています。アシスト(関連記事)や会津若松市役所(関連記事)などはMicrosoft OfficeからOpenOffice.orgに移行し,1000万円単位のコスト削減を行っています。

 もう一つのメリットはカスタマイズが容易なことです。すべての技術情報が公開されているため,自由に自社の業務やハードウエア環境に合わせて改良することができます。例えばいくつかの大学や専門学校などでは,実習にDVDやCD-ROMから起動するLinuxを利用しています。実習に必要な教材ソフトが収録されており,生徒はCD-ROMを持ち帰り家のパソコンのドライブに入れて電源をオンにするだけで,学校と同じ実習環境で勉強することができます(関連記事)。

デメリットは非互換性

 OSSはメリットばかり,というわけではありません。

 まず現在,デスクトップで最も多く使われているのは,Microsoft製品を始めとするクローズドソースのソフトウエアです。先ほどOSSは機能的にクローズドソース・ソフトウエアとそん色なくなっているとお話ししましたが,機能では劣っていなくとも,操作手順や見栄えなど,異なっている箇所もあります。そのためユーザーが戸惑ったり,使い方を覚えなおさなければならなかったりすることがあります。またクローズドソースのソフトウエアでは使える周辺機器やプログラムが使えない場合もあります。これらの問題については,採用前に検証し,許容できる範囲か,また他の方法で代替できるかなどを検討する必要があります。

標準の役割が拡大

 ただし長期的には,このような状況も改善されていくのではないかと我々は考えています。例えばWebブラウザを例にとれば,MicrosoftはInternet Explorer 8(IE8)で,IE7互換モードではなく,Web標準規格準拠モードを基本にしました。その背景には,パソコンだけではなく,ゲーム機やテレビ,iPhoneのようなスマートフォンなど,Webへアクセスするためのデバイスが多様化し,そのような環境で互換性を保つには標準を重視せざるを得なくなったことがあります。

 デバイスの多様化はさらに拡大していくでしょう。Googleは携帯電話など組み込み機器向けに,LinuxをベースにしたAndroidをOSSとして公開しています。また最近発表したデスクトップ向けのChrome OSもLinuxをベースにしており,OSSにすると表明しています。

 我々デスクトップ推進タスクフォースおよび日本OSS推進フォーラムのメンバーは,ユーザーが特定のソフトウエアに囲い込まれることなく,自由に選択でき,それぞれのソフトウエアが切磋琢磨していける環境が,IT全体の発展につながり,最終的にはユーザーのメリットになると考えています。そのような環境を作るための有力な候補が,オープンな標準にのっとったOSSです。

既に多くの実例

 前述のように,将来の話ではなく,現在既に高機能なOSSのデスクトップ・アプリケーションは多数あります。これらを活用することで,コスト削減やユーザーの利便性向上を実現した実例が既にあります。次回以降,そのようなソフトウエアや実例,ノウハウを紹介していきます。

飯尾淳(いいお じゅん)
日本OSS推進フォーラム
デスクトップ普及戦略検討タスクフォース 主査
飯尾淳(いいお じゅん) 1970年生まれ。1994年 東京大学大学院工学系研究科修了。株式会社三菱総合研究所 情報技術研究センター 先端情報技術研究グループ 主任研究員。2009年より東京農工大学 国際センター 客員准教授を兼務。博士(工学),技術士(情報工学部門)。日本OSS推進フォーラム デスクトップ普及戦略検討タスクフォース主査。著書に「演習と実例で学ぶプロジェクトマネジメント入門」,「Linuxによる画像処理プログラミング」など。