知的財産権の侵害を口実に,根拠のない警告メールや警告文を競合他社の取引先に送ると,差し止めや損害賠償請求の対象となる。このため,知財権行使の警告は慎重に行うべきだ。今回は,ITとは直接関係ない判例を取り上げたが,十分参考になるはずだ

 サンゴ化石を粉砕したサンゴ化石粉末(コーラルサンド)を,炭酸カルシウムやミネラルなどを含む健康食品として販売しているマリーンバイオ(東京都千代田区)が2000年に,「米国で取得した特許権をコーラルコーポレーション(本社沖縄県石垣市)が侵害している」とする警告の電子メールや書簡を,コーラルコーポレーションの米国の取引先(販売代理店)に送付した。コーラルコーポレーションは,マリーンバイオと同じような製品を販売しており,米国にも輸出していた。

 マリーンバイオは,特許侵害の証拠として,沖縄産のコーラルサンドを原材料とする浄水剤の製造・販売を禁止する那覇地方裁判所の判決文も,米国の取引先に提示していた。

 しかし,マリーンバイオが米国で取得していた特許の構成要件は,コーラルサンドを150~500メッシュに粉砕するというものだった。これに対してコーラルコーポレーションのコーラルサンドは,さらに微細な5000メッシュに粉砕していた。マリーンバイオが米国の取引先に示した那覇地方裁判所の判決も,コーラルコーポレーションとは無関係な企業に対するもので,マリーンバイオの米国特許権とも関係がなかった。

 こうした理由から,コーラルコーポレーション側は,「マリーンバイオの警告行為は不正競争防止法が禁止する虚偽事実の告知・流布に当たり,コーラルコーポレーションの営業上の信用を毀損している」と考え,2002年に特許権を侵害していないことの確認とマリーンバイオに対する告知・流布行為の差し止め,および損害賠償を求める訴訟を,東京地方裁判所に提起した。

 東京地方裁判所は,「コーラルコーポレーションが販売している製品の粒子サイズが5000メッシュであり,マリーンバイオが持つ特許発明の構成要件である150~500メッシュに該当していないことから,コーラルコーポレーションの製品はマリーンバイオの特許を侵害していない」と認定。マリーンバイオが米国の取引先に示した那覇地方裁判所の判決についても,「マリーンバイオの米国特許権に基づいたものではなく,コーラルサンドを用いた健康食品についての判決でもないことから,そもそもマリーンバイオの米国特許権やコーラルコーポレーションの製品とは何の関係もない」と断定した。

 そのうえで,マリーンバイオによる米国取引先に対する警告行為は,「米国特許権の行使の一環」として行われたものではなく,むしろコーラルコーポレーションの信用を毀損し,マリーンバイオが米国市場で競争上優位に立つことを目的としたものなので,「不正競争防止法」が2条1項14号で禁止している「営業誹謗行為」に該当すると判断。マリーンバイオに対して,警告行為の差し止めと299万円の損害賠償を命じた。(東京地方裁判所2003年10月16日判決 判例タイムズ1151号109頁)

 情報システムに関する特許権や著作権などの知的財産権は,ITベンダーやユーザー企業にとってますます戦略的な価値が高まっている。日本航空が同社の法人向けサービスに関するビジネスモデル特許を侵害しているとして2004年7月に全日空を訴えるなど,情報システムの知的財産権を巡る裁判も増える傾向にある。

 日本航空が全日空を訴えた事件は当事者同士の裁判だが,知的財産権を侵害されたと考えた企業が,相手の取引先に警告するケースも多い。裁判に発展することは少ないが,こうした例はIT業界でもよく見られる。

 では,知的財産権侵害に関して相手の取引先に警告する行為は法的に認められるのだろうか。結論から言えば,知的財産権に基づく正当な警告は認められるが,不当な警告は「不正競争防止法」違反となる。今回は,知的財産権行使のための警告に関する法律知識を解説する。

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