「まず日本で成功しないことには,世界市場での成功はない」---。

 「いや,最初から世界を目指さないと,世界市場では成功しない」---。

 これは,2009年5月中旬に開催された「IT国際競争力研究会」(超ガラパゴス研究会)でのやり取りだ。少々乱暴かもしれないが,前者は通信事業者に根ざした発想,後者はコンピュータ業界や半導体業界では当たり前の発想と言い換えられる。

 通信事業者は,国境の存在を強く意識する。基本的に各国の政府から事業免許を受け,まずは自国内のユーザーがサービスの対象だ。

 一方,コンピュータ業界には,当初から世界市場を目指す企業が多い。彼らの行動指針は,たくさん売れば売れるだけ商品に占める開発費の割合は小さくなり,商品の価格は安くなる,という発想に基づいている。

 “ガラパゴス化現象”の代名詞のように言われている日本の携帯電話は,通信業界の考えが支配的で,コンピュータ業界的な発想が欠けていた。例えば,そもそも日本語を使う人しか対象にしていないため,多言語への対応は無い。一方,米アップルのiPhoneは,パソコンと同じように発売当初から多言語対応していた。

 国内を中心にサービスを提供する通信事業者も,世界的な視野を持たないといずれツケが回ってくる。例えば,NTTドコモは,端末メーカーに対して開発費の一部を負担することを決めた。国内市場に注力するメーカーが市場の縮小に直面,端末の高機能化に伴う開発費の高騰に耐えられなくなったからだ。販売台数にかかわらず,開発費は同じようにかかる。国際市場で端末がたくさん売れていれば,今回の支援は無くて済んだかもしれない。

 一方,「日本が進んでいる」と慢心していると,世界の動向に追い越されてしまうこともあり得る。例えば,現在のWebブラウザはパソコン向けも携帯電話向けもHTML 5対応に向かっている。しかし,国内の携帯電話が標準搭載するブラウザは,HTML5とは別の独自の道を歩む。HTML 5に対応するiPhoneなどに比べて表現力で劣っている。

 かつて国内の携帯電話は,Javaにいち早く対応,販売後にアプリケーション・ソフトウエアを追加できるようになり,端末の多機能化・高機能化が一気に進んだ。しかしパソコンとモバイル機器の高機能化が同時進行するHTML 5の時代に,国内外の立場は逆転しかねない。

 これまで,国内外の仕様は対峙しがちだった(図1)。しかし,今のように技術の変化が激しい時代に,基盤技術から上位のサービスまでのすべてを自分たちだけで手掛けようという発想には無理がある。むしろ,基盤技術はできるだけ共通化して世界中のリソースを活用,その上に日本らしさをいかに残していくかという発想が必要ではないだろうか。

図1●「世界と日本」から「世界の中の日本」へ
図1●「世界と日本」から「世界の中の日本」へ
日本と世界の関係は,かつての対峙(たいじ)する関係から発想を転換する必要がある。共通基盤の上に,日本固有の個性や文化,独自性を残すイメージだ。標準規格に置き換えると,世界共通規格の上に独自の仕様を築く関係になる。

標準化は“ゲーム”,ルール作りに参加せよ

 このほか国際競争力を向上する手段として,マネジメント力やマーケティング力を強化すべきだと指摘する声が多い。

 標準化作業へのさらなる貢献に,競争力向上のヒントを見出す識者もいる。米インテルのグローバル・コンテント・ポリシー ディレクターのジェフリー T.ローレンス氏は,家庭内ネットワークの標準化作業に携わった経験から「標準化作業はゲーム。ルール作りに参加すべきだ」とアドバイスする。日本は国際ルールの策定者になることができず,常に受身になりがちだ。

 この7月に,英BTから韓国KTに移籍したヨン・キム氏は「日本は,システム的な発想が苦手だ」と表現する。ある特定の領域で品質を高めていくのは得意だが,多くの関係者との協力関係を作り上げていく点に弱点があるという指摘だ。常に関係者の動き注意を払い,孤立しないような策を考えておく,あるいは自らの案をねじ込むくらいの積極さが欲しい。

 最後に挙げられるのが,アピール力だ。5月に来日した,携帯電話の国際団体GSMアソシエーションのトップが口にした現在の日本の携帯電話業界の印象は,「インビジブル」(見えない)。日本の技術がいくら世界に先駆けていると自負しても,その存在は世界からは見えていない。例えば,技術や利用で先行しているはずのモバイル関連の専門会議に,日本人が誰もいないという状況がよくある。

 「自分はこの領域で貢献できる」と声を上げれば,情報は集まってくる。「もっと自信を持て」というエールも聞こえてくる。もっと世界に向けた情報発信が必要になるだろう。

もっとコミュニケーション力を強化

 本特集では,「世界的視野」,「マネジメント力」,「標準化活動」,「アピール」のそれぞれの視点から,キーパーソンによる提言を紹介する。これらに共通する要素を見出すなら「コミュニケーション」になる。自らがかかわる商品領域で視野やアンテナを世界に広げておく。社内外の意見を吸い上げ,企業戦略や製品開発の方向性を打ち出す。多くの関係者の利害を調整して規格を統一する。そして国内外に自らをアピールする。すべて“周囲とのコミュニケーション”に言い換えられる。

 国家レベル,企業レベル,個人レベルでコミュニケーション力を強化することが,日本全体の国際競争力の強化にきっとつながるはずだ。

出典:日経コミュニケーション 2009年8月15日号 pp.25-26
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。