南治 一徳 氏
ビサイド 代表取締役社長
南治 一徳 氏

 「新しいアイディアを思いついても,実際に作ってみたら面白くなかったり,想像していたよりも大変な作業になったりすることは多くあります。スケジュールを守るために夜遅くまで作業したり,休日に出勤して間に合わせることもあります」。ゲームプログラマとして長年活躍したビサイドの南治 一徳氏は,この仕事の苦労を語る。けれども「様々な才能と一緒に作品を作り上げていくこの仕事は,たまらなく楽しい」(南治氏)という。

 南治氏は「いつでもいっしょ」や「まいにちいっしょ」といったゲームの生みの親である。ゲームのメインキャラクターであるゆるい雰囲気のネコ「トロ」の父を意味する「トロチチ」が南治氏のニックネームだ。

 南治氏は学生時代,アルバイトのプログラマとしてゲーム業界に足を踏み入れ,ゲーム会社に就職した。ゲームプログラマとしてPlayStation向けピンボールゲームのシステムや3次元グラフィックス(3DCG)など主要部分をほぼ一人で開発したこともあった。そののちに,ソニー・コンピュータエンタテインメントのクリエイター公募制度「ゲームやろうぜ!」に応募。メンバーと一緒に携帯ゲーム機でトロなどのキャラクターと会話するゲーム「いつでもいっしょ」を開発,大ヒットとなった。

 南治氏の現在の立場はプロデューサだが,今もプログラムを書いている。「まいにちいっしょ」で使っているオーサリングツールは南治氏が作ったものだ。オープンソースのオフィスソフトOpenOffice.org上に書いたアニメーションのコンテから,画像とテキストを合成するツールであり,毎日PLAYSTATION 3 に配信されている映像はこのツールを使って作られている。

いかにハードを活用するか,まずは創作を始めよう

 ゲームは,ハードウエアの性能を引き出すことで新しい可能性を獲得する。例えば毎日アニメーションを配信する「まいにちいっしょ」は,ネットワーク接続,ハードディスクというPLAYSTATION 3の機能を活用することで生まれた。

 「まいにちいっしょ」では,トロたちの3DCGを作成する際に,アンビエント隠ぺいと呼ぶレンダリング(陰影付け)のアルゴリズムを採用した。柔らかく自然な質感が得られるが,計算量が膨大になる。

 PLAYSTATION 3の発売と同時にリリースされた「まいにちいっしょ」では,PLAYSTATION 3の性能を生かしてリアルタイムCGでこの手法に挑戦した。南治氏とビサイドのプログラマはテストプログラムを作り検証,画像処理用チップをフルに使うことでアンビエント隠ぺいを実現した。「すごくいい質感が得られました」(南治氏)。試行錯誤で未知のハードウエアの性能を引き出す開発はゲームならではと言える。

 「手を動かして作品を作ってみよう」。ゲームプログラマやクリエイターを志望する人たちに,南治氏はこうアドバイスする。今は企業ではなく個人でもゲームを作れる。ビサイドをはじめ,面接の際に就職希望の作品を見る会社は多い。南治氏自身,中学校の時からプログラミングを始め,大学時代に友人とゲームを作っていた。南治氏は「ツールはなんでもいい。ゲームでなくてもいい。創作しなければ始まらない」という。

お仕事解説:ゲームプログラマ

ゲームを動かす舞台と演出を作る

 ゲームを動かすためのプログラムを作り,調整する仕事。対象は,グラフィックスやメニュー,ネットワーク,ハードウエアなど多岐にわたる。グラフィックスデザイナが使うツールを,ゲームプログラマが作ることもある。言語も,CやJava,ActionScriptなど様々である。ゲームの使用感や体験を左右する重要な仕事といえる。

必要なスキル

  • プログラミング力
    C,Javaなどのプログラミング言語に加え,グラフィックス関連のプログラミングでは数学,物理,英語の知識も求められる。
  • ハードウエア
    プログラミングでハードウエアを操作するための知識。デバイスやネットワークのスキル。
  • 発想力
    よいアイデアを生み出すためには,観察力,様々な知識を身に付けること。発想をうまく伝えるには企画書にまとめる能力も必要。
出典:ITpro Magazine 2009.Spring号 p.52
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。