Forrester Research, Inc.
フランク・E・ジレット バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト

 米グーグルのネットブック向けOS「Chrome OS」は、Windowsを模倣したものではない。これからのコンピューティングの中心は、OSではなくオンラインサービスである。Chrome OSは「情報中心モデル」を採用した新しいパーソナルコンピューティングの基礎となる。フォレスターはこれを「パーソナルクラウド」と呼ぶ。今日の「PC中心モデル」を置き換えるものだ。

 Chrome OSは、「OSからパーソナルクラウドへ」という大きなパラダイムシフトの一つだ。パーソナルクラウドは、各種サービスやデバイス、Webブラウザ、プレイヤーソフトウエア、そしてOSの柔軟な組み合わせによって作られる。人々はあらゆるデバイスとサービスを横断して、個人の情報を整理し、配布し、保存する。

 マイクロソフトも消費者向けの「Windows Live」や企業向けの「Microsoft Online Services」、リッチ・インターネット・アプリケーションを実現する開発者向けの「Silverlight」を提供することで、パーソナルクラウドの基盤を構築し始めている。Chrome OSを正しく考察するためには、パーソナルコンピューティングの今後20年を見通すべきだ。

 パーソナルクラウドの世界では、OSはメンテナンスが必要なほど複雑であってはならない。複雑さはOSからオンラインサービスへシフトする。グーグルは、ドライバソフトウエアに関して心配する必要はないだろう。現在のコンピュータは、プリンタやカメラなど周辺機器のためにドライバが必要だ。しかし今後は、あらゆる周辺機器がIPアドレスを持ち、Web APIを経由してアクセス可能になる。OSメーカーや周辺機器メーカーの手間が劇的に少なくなる。

 消費者向けから企業向けまでを含むパーソナルコンピューティングすべてがChrome OSの影響を受ける。Chrome OSを「消費者向けOS」と見なすのは誤りだ。仕事と個人生活の境界が消えた世界では、「消費者向けOS」などもはや存在しない。個人を対象としたテクノロジはすべて、企業向けであり消費者向けである。

 パーソナルクラウドに取り組んでいるのは、マイクロソフトとグーグルだけではない。人々は様々なオンラインサービスと深い依存関係を持つようになった。米アップルの「MobileMe」や「iTunes」はMac OS Xの世界を飛び出し、WindowsやWebで利用できるようになった。

 ソーシャル・ネットワーク・サービスの「LinkedIn」や「Facebook」は他のパーソナルサービスの基盤となりつつある。米ヤフーや米AOLは正念場を迎えているが、いまだに大量のユーザーを抱えており、パーソナルクラウドの基盤になれる可能性がある。中国の「Baidu」や「Tencent」のような強力な地場サービスも、パーソナルクラウドプロバイダのエコシステムの一つになる可能性がある。

 従来型OSの存在感は小さくなるが、状況が完全に変わるまでには10年以上はかかる。いくら既存のLinuxコードを使っているから、強力なオンラインサービスがあるからといっても、Chrome OSの浮上には時間がかかるだろう。

 同じように消費者やソフトウエアメーカーも、既存アプリケーションをオンラインサービスに移行するのに手間取るはずだ。米インテュイットはWebベースの個人向け会計ソフトの「Quicken Online」をリリースしたが、PCベースの「Quicken」との互換性がなく、既存のデータを移行する手段すらない。

 同様に企業も、「Salesforce.com」のようなSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)をようやく使い出したばかりで、既存のアプリケーションを SaaSに移行した事例はまれだ。クライアント/サーバーモデルやインターネットがそうであったように、パーソナルクラウドへの移行にもそれ相応の時間がかかるだろう。

◆本記事は,“Chrome OS Will Extend Google's Online Services, Not Imitate Windows”を日経コンピュータ編集部で翻訳・構成したものです。

出典:日経コンピュータ 2009年8月5日号 137ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。