1990年代にしきりに使われた「デジタルコンバージェンス」という言葉がある。デジタル技術を通して,通信,放送,出版といったメディアが融合していくことを表した言葉だ。iPhoneが登場した今,このデジタルコンバージェンスが,まさに世界中の手のひらの中で起ころうとしている。

 iPhoneとiPod touchを合わせた販売台数は,2009年6月時点で4000万台を突破。この巨大で新しいメディアに対して,欧米では既に新聞業界,雑誌業界,テレビ業界,映画業界,音楽業界,広告業界,個人のクリエータまでが,大きな注目を注いでいる。

手のひらのコンバージェンス

 欧米ではWallstreet JournalやUSA Todayをはじめとする新聞,People magazineやELLEのカナダ版といった雑誌,シェークスピアや「不思議の国のアリス」のようなクラシック,映画にもなったSFの「トランスフォーマー」,ステファン・メイヤー氏の「New Moon」といった人気小説までが,既にiPhoneのアプリとして発売されている(写真1)。

写真1●新聞のUSA Today,雑誌のElle Canada,テレビのE!のアプリ
専用のiPhoneアプリケーションを用意してコンテンツを再配信している。
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 出版業界だけではない。米国で人気の芸能エンターテイメント・ニュース専門チャンネル「E!」もアプリケーションを出していれば,FOXやNBCのニュース番組もアプリケーションを出している(写真2)。加えて米国では,スポーツの試合や人気のテレビドラマも放映から24時間以内には,アップルのiTunes Storeを通して発売される。前日のドラマを見逃しても,自宅を出る前にiPhoneのiTunes Storeから購入すれば,お昼休みなどにiPhoneの画面で楽しむことができる。

写真2●米国のiTunes Storeでは音楽,映画,テレビ番組を販売
映画はレンタルも実施している。iPhone OS 3.0以降は,こうした映像コンテンツもiPhoneから直接購入できる。
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 映画業界とiPhoneの関わりも深い。既にアップルはiTunes Storeでの映画の販売に加えて,レンタルも開始している。好きなタイトルを選んで「レンタル」すると,映画のコンテンツがiPhoneにダウンロードされる。その後,映画の再生開始後24時間経つと,返却不要でダウンロードした映画が自動的に消える。延滞料金も発生しない。もう1度見たければ,もう1度レンタルすることになる。途中まで見た映画をパソコンに転送して続きを見ることもできるし,あらかじめパソコン側でレンタルすればハイビジョンの映画を楽しむこともできる。

 さらにiPhone用のアプリ販売サイトApp Storeには,映画のプロモーションと連動した宣伝アプリケーションも多く,中には有料で販売し,アプリとしてもそれなりに収益を上げたものもある。iPhoneやAndroid用のアプリ内広告サービスを提供するアド・モブ社日本法人代表取締役のジョン・ラーゲリン氏によれば,アプリケーション内に表示される広告にも,映画関連の出稿が多いという。

 例えば「SAW」という映画の広告では,アプリケーション画面の上隅に小さく表示される,映画の広告をクリックすると,映画の予告編が上映される。重要なのはこの後だ。予告編を見終わると,きちんと使用途中だったアプリケーションの画面に再び戻って作業できるのだ。これはアド・モブ社のキャンバスという機能を使った広告の特徴であり,この機能はアプリ開発者から高く評価されている。

 ラーゲリン氏によれば,日本国内のモバイル広告は他のモバイルサービスのものなどが中心だが,米国ではiPhoneの登場以降,清涼飲料水や自動車,映画といったナショナルクライアントも大量にiPhoneに広告を出しているという。

ファッション業界はいち早く注目

 iPhoneのメディアとしての可能性にかなり早くから目を付けていたのは,ファッション業界の人々だ。CHANEL(シャネル)はiPhoneのApp Storeがオープンしてすぐに同社のオートクチュールのファッションショー動画やアクセサリーの写真集,シャネル関係のニュース,そして店舗一覧などを紹介するアプリケーションを提供した。しばらくするとRalph LaurenやGAPといったアパレル系ブランドもiPhone用マーケティング・アプリを出すようになり,やがてstyle.comなどのファッション系メディアもiPhone用アプリを出し始め,ファッション業界の人間にはiPhoneが必須というイメージを作り出した。

 各社がiPhone用に,こうしたマーケティング/ブランディング系アプリを出す理由はiPhone/iPod touchが世界で4000万台が普及しているという規模の大きさだけではない。他の携帯電話機で同様のアプリケーションを提供しても,メニューの深い階層に埋もれてしまう恐れがある。一方,iPhone用アプリなら,アプリを起動していないときも,ユーザーが日々目にするホーム画面に,アイコンが表示される。アプリユーザーとブランドとの距離を継続的に縮めることができるのだ。携帯電話機という多くの人々が常に持ち歩く生活に根ざした道具に,ブランドの世界観への窓口を置いておける意味は大きい。

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