200を超える特許で高額なR&D費用を吸収

 iPhoneのタッチソフトが,今ある類似のタッチ液晶型携帯電話端末の中でも,最も高い品質を実現していることに異論を差し挟む人はいないだろう。ソフト技術,ハード技術,工業デザインの3方向から洗練された使い心地は,他のライバル製品の追随を許さない。

 iPhoneのタッチ操作は簡単に作れるものではない。最高レベルのハードウエア・エンジニアと最高レベルのソフトウエア・エンジニアが,お互いの壁を越えて協力し,最適化する必要がある。

図2●アップルは多くの収益源を持つ
iPhoneなどの販売利益のほか,特許利用料,動画や音楽,アプリケーションの販売に関する利益,サポートサービスの利益などがある。
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 ひと口にタッチ操作と言っても,iPhoneではシチュエーションに応じた最適化を図っている。キーボードなどでは指を離した瞬間に認識し,電話のダイヤルなどの大きなキーでは指が触れた瞬間に認識するといった具合だ。さらに,このタッチの応用でドラッグやダブルタップといった操作や,2本指タップ,ピンチイン,ピンチアウトといった操作にも対応する。かなり細かなシチュエーション別に認識方法のパターンを用意し,それをしっかりとテストし,社内で改良を重ねてきた。こうしたiPhoneの優れたタッチ操作が登場したことで,タッチ操作は最も注目される操作方法となったが,巷に売られているタッチ操作の携帯電話端末がすべてiPhone並みの使いやすさを実現しているわけではない。

 アップルの研究開発には,当然膨大な費用がかかっている。ただしアップルは,顧客に高額な開発費を負担させようとは考えていない。(1)特許収入,(2)販売モデルの2つによって,iPhone1台当たりの開発費を抑えている(図2)。

 アップルはiPhoneに関連して,200以上の特許を取得している。さらに,「必要となればそれを行使する」と宣言している。高い研究開発費をかけて誰もが真似したくなるようなものを作ったからには,後続のメーカーからしっかりと特許料を受け取るのが第一の戦略だ。実は,タッチ操作式の携帯電話端末を開発・販売する日本メーカーの中には,iPhoneのマルチタッチ操作(複数の指を使った操作)を自社製品でも採用するために,アップルに特許料を支払っている企業がある。

グローバル戦略で1台当たりの負担を減らす

 アップルが研究開発費の消費者負担を減らせるのは,販売モデルにも秘密がある。具体的には,端末モデルの絞り込み,1年サイクルの製品展開,グローバル展開---だ。

 アップルのiPhoneシリーズは,今までのところ1年に1製品展開を貫いている。もちろん,搭載するフラッシュメモリーの容量が16Gバイトや32Gバイトという差があったり,色の違いがあったりするが,基本的には1製品だ。日本メーカーが半年に1製品という短いサイクルで製品をリニューアルしているのと比較すると,じっくりと端末作りができる。1製品を長い期間販売すれば,1台当たりの販売数が増え,同じ研究開発費からより多くの収益をあげられる。

 さらに,グローバル展開で1製品当たりの販売数を引き上げている。良い端末を作って,それを世界展開し,1台あたりの開発費負担を下げようと努力している。携帯電話端末の製造コストは,大きく分けて端末のハードウエアを作るのにかかるコストと,端末のソフトウエアを作るのにかかるコストがある。1台の端末のハードを作るコストは,販売数が多いほど抑えられるが,それほど劇的には下がらない。だが,1台当たりのソフトの研究開発費は,販売数で割ることになるので,販売数が多いほど安くなる。

 例えば,ソフトウエアに50億円の研究開発費をかけた端末を日本市場だけで売る場合,1機種当り200万~300万台売れたとすると,1台当たりの負担は数千円になる計算だ(図3)。これに対してiPhoneのように世界80カ国で展開し,しかも基本的に1年に1度のモデルチェンジというサイクルで開発すると,出荷する製品数も10倍近い2000万~3000万台規模となる。その分,顧客(エンドユーザー)1人当たりの開発費の負担は大幅に小さくなる。あるいは1台当たり10倍近い開発費をかけられることになる。

図3●ソフトなどの1台当たりの開発費は販売台数に左右される
図3●ソフトなどの1台当たりの開発費は販売台数に左右される
iPhoneのように1機種で3000万台売れる端末なら,1台当たりの開発費を抑えられる。

 iPhoneの技術革新の大半はソフトウエアで作られている。アップルはそのソフトをすべて自社のエンジニアに作らせており,1製品作るごとに過去の経験や,問題点のフィードバック,その解決方法といったノウハウも蓄積している。

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