市場効率主義の立場から正当性を主張する日本音楽著作権協会(JASRAC)と,市場競争重視を貫く公正取引委員会。審判へとゆだねられた勝敗の行方はどちらへ転がるのか。法政大学社会学部の白田秀彰准教授は,審判で両者の主張が解明され,そこから著作権管理事業構造の本質的な議論へと発展することに期待を寄せる。

(聞き手は島田 昇=日経コンピュータ,高瀬 徹朗=放送ジャーナリスト)

自由主義的態度は公正な競争環境に限り正当性を持つ

法政大学 社会学部 情報法担当准教授 白田 秀彰氏
法政大学 社会学部 情報法担当准教授 白田 秀彰氏

今回の公取委による独占禁止法違反適用についてどう見るか。

 JASRACは,国際著作権事件である1931年の「プラーゲ旋風」(海外からの猛烈な権利主張により海外楽曲が使いづらくなった現象)を端緒として,1939年の著作権仲介業務法施行の後,政府指導のもと設立された。もとより政府は,音楽著作権の仲介事業について集中と独占(外国人排除)を目的としていた。また,一方の当事者である放送事業者は,総務省(旧郵政省)による免許事業だ。政府は,放送事業への参入調整によって事業を維持できる収益を保障していたわけで,当然,寡占事業となる。

 経済学の観点から見れば,包括許諾契約は独占のJASRACと寡占の放送局によるカルテルであることは明らかだが,「放送用楽曲の著作権使用許諾」という限定された市場を考えるとき,関係者すべてについて効率的かつ合理的な契約だから,不正があったとはいえない。したがって,長年にわたって包括許諾契約が問題視されたことはなかった。

では,JASRAC側に落ち度はないと。

 仲介業務法が,2000年に著作権等管理事業法へと改正(施行は2001年)されたことで,市場の構造が変化した。規制緩和によって新規管理事業者が参入したことで,JASRACと新規管理事業者との競争市場が発生した。「法改正は,JASRACの独占管理体制への批判が生じたことを受けて単に規制緩和しただけ」という主張もあるだろう。

 しかし,立法によって新規管理事業者の参入を認めたことは事実であるから,事実上,新規管理事業者が競争すらできないような市場の状態を放置することは,立法目的に反する。「新規管理事業者は,放送以外の他の領域で競争できたはず」という主張は,JASRACが放送市場での事実上の独占から得る市場支配力を,テコとして他領域で行使することを禁じなければ成立しない。

 「勝手に参入してきてください。でも潰れるときも勝手にどうぞ」という自由主義的態度が正当性を持つのは,公正な競争が可能な場合に限られる。すなわち,法改正が自由主義と規制緩和を目的としているならば,より一層,公正な競争を可能とする市場構造が必要なはずだ。公正取引委員会は,この公正な競争秩序形成を目的とする組織なのだから,包括許諾契約に介入したことに問題はない。

両者にとって審判は表と出るか,裏と出るか

そこにJASRACの意図があるかどうかは関係ないということか。

 考え方として独占には,悪意ある競争排除による独占と,自由競争の結果としての自然独占との2種類がある。

 独占禁止法では,悪意ある競争排除について犯罪行為として処罰対象としている。一方,自由競争の結果としての独占については,独占自体は「不正」でないとしても,社会全体の便益から見た場合に「有害」であると考える。そこで自由市場の機能を維持するために,排除措置命令などの市場介入が行われる。両者はいずれも「独占禁止法違反」とされるが,その「違法」の意味はまったく異なる。

 JASRACは「包括許諾契約は,何ら悪意・不正を意図していない」と主張するだろうが,それは正しいだろう。

 一方,管理事業法が予定していた市場の状況は,JASRACと新規管理事業者が競争する中で,より開放的で多様かつ創作者に有利な,管理事業者と創作者間の市場が形成されることにあったはず。ところが,放送局と管理事業者間の市場において,包括許諾契約から生じる市場支配力が新規管理事業者の成長を阻害し,実質的に管理事業者と創作者間の競争的な市場形成を阻害している。

 このため,その市場支配力から生じる不利益は実際には創作者に及んでいる。ならば,公正取引委員会が,仲介業務法時代の政策独占の名残から生じている市場の歪みを,是正するために乗り出すことは当然だろう。

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