サービス・イノベーションの具体例として、プロセス革新やシームレス結合、分野横断、新旧合作といった様々な事例を紹介してきた。これらはみな、業務プロセスを見直して、一貫したシステム活用を組み込んだ結果である。投資対効果も高く、多くの産業で応用できるものだ。共通するイノベーションのキーワードは2つある。1つは双方向でタイムリーな情報の共有であり、もう1つは省力化とサービス向上を含む業務プロセスの共有である。さらに重要なのは、この2つの共有から企業間や業種間の新たな「共創」の道が開ける点だ。

 共創とは、限られた領域での分担・分業の組み合わせではなく、従来の枠組みを超え、それぞれが持つノウハウや資源を最も効果的で効率的にすり合わせたり、組み合わせたりして、新たな価値やサービスを継続的に生み出す仕組みととらえたい。チームの価値観とIT(情報技術)活用能力が共有されれば、共創の実行力は盤石になる。

 下の図は、商品の製造から販売までのマーチャンダイジングプロセスを、登場するプレーヤーの役割や機能まで含めて表現したモデルである。顧客接点である店舗は顧客ニーズに対する仮説を持って品ぞろえや発注をし、季節や催事の情報を織り込んだ売り場作りで商品を提案して、フレンドリーな接客で販売する。営業本部はこれらのプロセスを現場で支援し、商品本部は商品開発や品ぞろえ提案、販売促進情報の提供で店舗を支援する。取引先も含め、店舗の品ぞろえや発注の状況、売り場作りや販売の情報をタイムリーに共有する。つまり、情報共有のポイントは、いかに売るかの仮説情報の共有であり、その検証としてPOS(販売時点情報管理)情報の共有が位置づけられる。

 一方、業務プロセスの共有はタイムリーな情報共有をベースに、営業担当者が店舗に密着し、運営本部と商品本部・物流本部、そして取引先(原材料メーカー、製品メーカー、問屋、物流センター)も連携する。顧客接点の情報をシステムで共有し、企業の壁を越えたシームレスな仕組みが必須だ。

 セブン-イレブン・ジャパンは取引先にもシステムを提供することで、統一された業務品質を実現している。受発注システムや物流管理システム、在庫管理や売り掛け請求システム、デイリー商品メーカーの生産管理システム、取引先情報共有システムなど、統一されたデザインコンセプトによるシステム構築が業務プロセスの連動と一貫性を生み、共創の基盤を作っている。

 取引先との共創によるオリジナル商品の開発は売上高の53%に至った。新たな共創型商品開発の典型であり、多くの小売業も同様の歩みを強めている。図の下部に示す各プレーヤーの部分的接点のみでの連携や、個別のシステムの結果管理型で情報鮮度の低い接続では、もはや変化への対応は不可能である。ここでもオープンでリアルタイムなIT活用が求められている。

図●マーチャンダイジングサイクルでのプロセスと情報の共有
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 時代はさらに進んでいることを見逃してはならない。それはネット上に広がる巨大ビジネスプラットフォームだ。米アマゾン・ドット・コムや米グーグルが自社のシステムやサービス、コンテンツを無償公開し、他社サイトとの接続で集客や販売連携を強化したのに続き、複数のウェブサイトの情報やシステムを組み合わせて、新たなサービスを提供する方式(マッシュアップ)が広がっている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もコミュニティーに参加する数千万人に他社サイトが接続することを認めている。これは自前主義ではなく、他社との共有と共創で、早く安く気が利いた新たなビジネスモデルが生まれることを意味し、IT活用が企業の生命線になる時代の訪れを実感させる。

碓井 誠(うすい まこと)氏
フューチャーアーキテクト 副社長
フューチャーアーキテクト 副社長 碓井 誠氏  1978年10月 セブン-イレブン・ジャパン入社。96年5月 取締役情報システム部長。2000年5月常務取締役情報システム本部長。2004年1月 フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)入社。3月取締役副社長に就任(現職)。2008年9月 独立行政法人産業技術総合研究所、研究顧問(サービス工学研究センター)に就任(兼務)
出典:日経情報ストラテジー 2008年6月号 64ページから
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