今回は、顧客接点であり、販売の現場である店舗を起点とし、一気通貫で情報共有する仕組みの組み立て方を説明する。これまでのマーチャンダイジングプロセスは、原材料→製造→卸→物流→店舗→顧客の流れで考えるのが一般的だったが、この考えは物の流れを表現したもので、売り手市場の一方通行のプロセスである。一方、顧客が中心になる買い手市場では顧客接点を起点として販売情報をシームレスに関係者が共有し、マーチャンダイジングプロセスの各フェーズを顧客接点での価値の最大化に向けてコントロールする。

 つまり、店頭情報をタイムリーに関係者にフィードバックし、製品仕様の改良や生産調整、在庫の適正化や欠品の防止、サプライチェーン全体の品ぞろえ改善、在庫の過不足調整などを、いかに迅速かつ効率的に実施するかが問われる。そのベースとなるのが一気通貫の情報共有である。

 図は小売業と取引先との一気通貫の情報共有モデルである。セブン-イレブン・ジャパンも同様の仕組みが整備され、店舗POS(販売時点情報管理)情報システムではリアルタイムな情報が活用され、本部情報共有システムと取引先情報共有システムは前日の24時までの直近情報を参照できる。取引先はメーカー、ベンダー、配送センターが自社の取り扱い商品や取り扱いエリアに応じた情報を参照でき、販売動向や在庫状況を分析し、工場別や地域別の生産や在庫をタイムリーに調整する。

図●小売業における一気通貫の情報共有システム
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 例えば、毎年8月末から最初に北海道で展開されるチョコレートの販売情報は、展開地区の南下に伴う原材料の調達や生産計画の基礎情報になると同時に、後続地区の店舗が仮説を立案する際の先行情報として参照される。従来、メーカーの生産計画は出荷データを基に組み立てられており、結果的に実需とは程遠いものになっていた。

 直近情報の活用は、商品ライフサイクルの終盤でも威力を発揮する。地区ごとの販売状況を比較し、販売下降地域では取り扱いを中止し、代わりに販売力のある地域に在庫を移動してタイムリーに消化する。ここでは販売や在庫のデータに加え、店舗への商品導入率も評価でき、迅速な判断ができる。情報共有の効果は、メーカーに返品ができないオリジナル商品の最終処分金額の低減にも表れ、従来比で50~70%の改善がみられた。加工食品や雑貨のセンター在庫日数も 4~6日と少なくなり、欠品率も10万分の6程度と良好なレベルにある。

 こうした対応は先進的な小売業の共通課題として取り組まれている。衣料品の売上高で国内3位に躍進したしまむらは、実用衣料にも流行のトレンドをいち早く取り入れ、店舗間での在庫移動を本部システムでコントロールし、これらの移動をローコストでこなす自前の物流システムを整備した。同様に米ウォルマート・ストアーズも、取引先との情報共有システム「リテールリンク」を武器に、CPFR(需要予測と在庫補充のための共同事業)を広めた。ウォルマートはサプライヤーと共有する情報をベースに、販売計画や販促計画、発注書の作成まで実行し、売り場展開や売り上げ目標まで互いに共有している。

 スペインの衣料品メーカーZARAも店頭情報をベースにした迅速な意思決定により、シーズンごとの投入商品は売り切り御免が常識であるファッション業界にあって、シーズン内の追加や新規投入を実現し、値引き販売率は20%弱と業界水準の半分程度を達成した。いずれもオープン技術の活用やデータベース設計を一気通貫でデザインし、ウェブ技術の活用によるDCM(デマンドチェーン・マネジメント)とSCM(サプライチェーン・マネジメント)の連携を図った戦略的システム活用である。

碓井 誠(うすい まこと)氏
フューチャーアーキテクト 副社長
フューチャーアーキテクト 副社長 碓井 誠氏  1978年10月 セブン-イレブン・ジャパン入社。96年5月 取締役情報システム部長。2000年5月常務取締役情報システム本部長。2004年1月 フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)入社。3月取締役副社長に就任(現職)。2008年9月 独立行政法人産業技術総合研究所、研究顧問(サービス工学研究センター)に就任(兼務)
出典:日経情報ストラテジー 2008年3月号 68ページから
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