IT技術者への需要が急激に減速している。SEやプログラマなどを顧客先に派遣する「IT派遣ビジネス」を手掛ける主要な人材派遣業者6社を対象に、IT技術者の需給状況を聞いたところ、2008年の秋以降、人材派遣の新規案件が急減していることが分かった()。成長を続けてきたIT派遣ビジネスが、曲がり角を迎えている。

表●IT派遣ビジネスを手掛ける主要企業の状況
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 調査対象は、企業に属さないフリーのIT技術者を顧客先に送り込む「登録型派遣」を主力にした企業である。

 各社の話を総合すると、新規案件の減少は、08年10月~11月を境に始まった。例えばスタッフサービス・ITソリューションは「11月から、新規案件数が前年同月の7割の水準に落ち込んだ」(和泉幸治 営業統括部統括ゼネラルマネージャー)と話す。他の5社も新規案件は前年比で6割~8割の水準にまで低下しているようだ。

 各社は大手メーカーやSIerに加え、ユーザー企業からも仕事を受注している。ユーザーの業種別で需給状況を見ると「製造業と金融業の落ち込みが目立っている」(リクルートスタッフィングの田中智己ITスタッフィング部長)という指摘が多い。

09年度の新規需要が焦点に

 顧客が新規案件を減らす一方で、顧客の間で既存プロジェクトを見直すような動きはあまりない。このため、実際に稼働している派遣技術者の総数(稼働者数)はまだ落ち込んでいない。各社とも、08年度下期の売上高は横ばいから5%程度の伸びは維持する見通しだ。

 インテリジェンスの瀬野尾裕・事務派遣事業部長は「08年度下期の売り上げは前年同期比で5%程度の成長に落ち着きそう。08年度上期と比べると減速しているがプラス成長は確保できるだろう」と話す。

 スタッフサービス・ITソリューションの和泉ゼネラルマネージャーも「稼働者数は08年11月から減少に転じているが、減少幅はまだ小さい。上期が好調だったため、08年度通期のIT部門の売上高は前年度比7~8%増を達成できるだろう」と見ている。

 問題は09年4月以降だ。年度末になって多くのプロジェクトが完了すると、顧客先から大量のSEやプログラマが戻ってくる。

 09年度は顧客がこれまで以上にIT投資を絞り込み、新規案件の中止や規模縮小などが相次ぐ可能性がある。こうなると多くのSEやプログラマが余剰になる。IT技術者の需給バランスが一気に崩れ、実稼働者数が落ち込んだり、技術者の人月単価に下げ圧力が加わったりすることがあり得る。

 09年度の事業見通しを占う顧客先との新規案件の折衝は2~3月に佳境を迎える。多くの企業は、今まで年率10~20%の高成長を続けてきただけに、「プラス成長を死守するためにも、09年度は需要の掘り起こしや、顧客ニーズへの対応に力を入れる」(リクルートスタッフィングの田中部長)と力を込める。

上級SEの需要は堅調

 顧客ニーズに対応する取り組みの一つが、スキルの高いIT技術者派遣の強化である。新規案件が減るなかでも、コンサルタントやプロジェクトマネジャー(PM)、要件分析や概要設計などを担当する上級SEの派遣は、需要が堅調だからだ。

 テンプスタッフ・テクノロジーの磯田英嗣取締役は、「需要が減っているのは、下流工程を担ってきたプログラマなどの技術者である。上流工程を担う人材は、まだ引く手あまたの状態が続くだろう」と話す。

 コンサルタントやPM、上級SEが重宝されているのは、案件の規模にかかわらず、プロジェクトを成功に導く重要な戦力と見られているからだ。これまでも人材不足が続いてきたこともあり、しばらく堅調な需要が続くだろう、という意見が出ている。

 プログラマの需要の減少は、不況の影響でユーザー企業が大規模開発を避ける傾向が強まり、新規案件の規模自体も縮小傾向にあるため、とみられる。

経験者を活用する企業も

 PMや上級SEを育成するために、各社は人材育成戦略を転換しようとしている。

 リクルートスタッフィングの田中部長は、「これまではプログラマの大量育成が奏効し、事業を伸ばしてきた。今後は、プログラマから設計ができるSE、SEから上流工程を担える上級SEへと、派遣技術者のスキル向上に取り組む施策が課題になってくる」と語る。

 既に派遣技術者の教育に力を入れている企業もある。パソナテックは、技術者の派遣料金を決める尺度としてITSS(ITスキル標準)を採用し、併せてITSSの取得レベルを高めるための教育カリキュラムを拡充させているところだ。昇給という動機付けを行なうことで派遣技術者に教育カリキュラムの受講を促し、スキル向上を図る狙いである。

 PMや上級SEの育成は時間がかかることもあり、各社は経験者の獲得にも力を入れている。登録型派遣の場合、コンサルタントやPMなどは「実力次第で月額100万円、年間1000万円の収入を得ている例も多くある」(パソナテックの加藤直樹取締役)。腕に自信がある若手技術者の中には、独立する方策として関心も高い。各社とも派遣技術者として働くメリットの訴求に力を入れている。

 IT派遣ビジネスの動向は、受託開発の下請けを主体にしてきたSIerにとっても対岸の火事とはいえないだろう。「偽装請負」が社会問題になり、一部のユーザー企業や元請けITベンダーが契約を見直したことがきっかけで、IT派遣ビジネスが活用される場面が増えているからである。

 既に、人材派遣業者とSIerの間で、案件獲得の競争が始まっているという指摘もある。競争激化で、SE人月単価の相場に影響する可能性もある。

出典:日経ソリューションビジネス 2009年02月15日号 10ページより
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