英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 10年ほど前,欧州の携帯電話会社は第3世代携帯電話(3G)がもたらす新たなビジネスチャンスに胸を躍らせていた。そして3G帯域の認可を得るために何兆円というお金を投資した。しかしデータ通信によって収入が増えるという3Gへの期待は現実化せず,ほとんどの収入は音声サービスが占めるという事態が続いていた。

 だがここに来て,遅ればせながら欧州でもモバイル・ブロードバンドという形で3Gに拍車がかかり始めた。安価なUSBモデムと高速なHSPAネットワークが発火点となり,ユーザーの支持を集めている。それに伴って競争が激化し,値下げも著しくなってきた。

 英国では携帯電話事業者の3(スリー)がモバイル・ブロードバンド市場を引っ張っている。月額5ポンド(約670円,2008年12月中旬でのレート。以下同じ)と廉価なHSPAサービスを投入しているが,一番人気は月額15ポンド(約2020円)で3Gバイトまで通信できるプランだ。3によれば 2007年の6カ月間で,50万ユニットを販売したという。

 3に対抗し,英国の携帯電話事業者であるO2は12月1日,2ポンド(約270円)で丸1日,最大500Mバイトまで通信できるHSPAサービスを発表した。しかもクラウドという事業者が運用する約6000カ所のホットスポットも無制限で利用できる。ちなみにUSBモデムは29.35ポンド(約4000 円)である。

 欧州ではこの先5年間で,モバイル・ブロードバンド市場が固定市場を追い抜くと言われている。2013年までに欧州のモバイル・ブロードバンド利用者は4000万人を越え,全人口の10%を占めるという予測もある。

オーストリアでは固定を抜く

 欧州で最も競争が激化しているオーストリアでは,モバイル・ブロードバンドの料金は固定ブロードバンドに匹敵するほど下がっている。その結果2007年に,同国のモバイル・ブロードバンドの新規利用者は固定を超えた。2008年もその勢いは止まらず,最近の新規加入者のうち,なんと59%がモバイル・ブロードバンドを選んでいる。

 このままでは顧客をモバイルに奪い取られかねないため,固定通信事業者は工夫をこらしたサービスを投入しつつある。例えばオーストリアで最大手の総合通信事業者であるテレコム・オーストリアは,パソコンに入れたソフトウエアが,固定回線とモバイル回線,無線LANの中から自動的に最も速く安価な接続を選択するサービスを始めた。事業者にとって限りある周波数を有効利用する点でもこのような統合サービスはメリットがある。

 英国ではO2,ボーダフォン, オレンジといった事業者が固定と携帯を融合したサービスを提供しているが,今後はテレコム・オーストリアのようなサービスを出してくるかもしれない。

 HSPA技術で高速化した3Gは,ようやく最初のもくろみどおり,ユーザーを増やしつつある。ただ3Gに投資したリターンが明確になる前に,3.9GのLTEや4Gなど次のネットワークを検討する時期に来ているのが悩ましい点だ。

ヨン・キム(Yung Kim)
英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
 世界的な金融市場の崩壊が英国に与えた影響は他の先進国より深刻のようだ。英国の金融産業は経済全体のかなりの部分を占めてきたが,英ポンドは日本円やユーロに対して完全に太刀打ちできなくなった。クリスマス・シーズンに英国を訪れる欧州の人はショッピングにユーロを利用するだろう。英国政府には,かつて日本が経験した回復まで時間がかかる政策ではなく,辛い局面があっても短期間で回復できる方策を採ってほしい。
出典:日経コミュニケーション 2009年1月1日号 p.87
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。