秘書型サービスに外部から提供する情報として,ユーザーの周囲やこれから移動する先の環境の情報を与えられれば,いっそうきめ細かなサービスができる。例えば,最寄り駅への終電に乗り遅れたユーザーをナビゲーションする際に,まだ運行している電車の駅を検索し,タクシー待ちの行列の長さや駅から自宅までの道路の混雑状況を調査。これらを勘案して最も短い時間で帰宅できるルートを提示する。夜道を女性が歩く際に,明るく,人通りの多い道を優先して誘導することも考えられる。

 こうしたサービスの基本となる情報を提供するために,通信事業者自らが外部センサーを用意しようとする動きがある。ウィルコムは2009年10月に次世代PHSサービス「WILLCOM CORE」を開始する。そのための基地局設置工事のタイミングに合わせて一緒にセンサーを付けていけば,後から別に工事するよりも格段に安いコストで設置が完了する。このセンサー情報を集約して外部に公開できるインフラを整備し,これをサービスにしようと考えているのだ(図1)。

図1●ウィルコムの基地局センサー・ネットワーク
WILLCOM COREの基地局設置場所にカメラや温度,降雨量などのセンサーを取り付ける。これらのセンサーから得られた情報をサービス事業者に提供することを狙う。
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 搭載するセンサーは,カメラのほか,温度計,降雨計,二酸化炭素濃度計などが考えられている。中心となるのはカメラだ。カメラの映像を解析することで,人の動きや自動車の流れ,異常事態の検知に利用できる。「『駅前のタクシー乗り場をカメラで撮影し,待っている人数を解析する』,『駐車場を撮影して混み具合を解析する』ことができる」(ウィルコム次世代事業推進室事業推進G笠原秀一課長補佐)という。商業施設や遊園地に設置して人の動きを調べたり,道路を観察して詳細な渋滞情報マップが作れる。

 ただし,基地局に付けたカメラで人や自動車を観察することは,プライバシ侵害の懸念がある。そこで,ウィルコムが中心となり設立した「BWAユビキタスネットワーク研究会」では,この問題を検討中である。基地局設置までの時間が迫っていることから,「2008年中に方向性を示し,実証実験などを通じてさらに議論を深める」(笠原課長補佐)方針だ。

 センサー集約基盤での収益モデルやセンサー群を管理・運営する母体についても検討中で,2009年3月に策定する。収益は「センサーの情報を使う個人ユーザーから月額の利用料を徴収するBtoCモデル,センサー情報を活用したいコンテンツ提供事業者から使用料を徴収するBtoBの二つのモデルで検討している」(同)。

閉じたセンサー集約がビジネスに

 ウィルコムのように自社でセンサーを設置せず,既に他の組織内で“閉じて”使われているセンサー情報を集約して,これをサービスにつなげる企業もある。野村総合研究所の子会社,ユビークリンクだ。

 同社はタクシー会社と個別に契約し,それぞれの会社が持つ配車システムからタクシーの位置をリアルタイムに集めている。現在,政令指定都市を走る1万 5000台のタクシーの運行情報を集めているという。このほか,駐車場運営会社と提携して,駐車場の混雑状況も逐次収集している。現在このシステムで提供しているのが,携帯電話用ナビゲーション・サービス「全力案内!」。タクシーの運行データを解析し,現在の道路状況と過去に蓄積した情報を基に,渋滞を考慮したルートを検索する。

 統計的な情報ではなく,個別の自動車の動きを解析すれば,交通安全サービスにつなげることもできる(図2)。自動車の速度と方向,携帯電話ユーザーの速度と方向をマッチングさせ,歩行者と自動車が交差すると予測される場合に注意を促すというものだ。こうしたサービスの実現に向けて,横浜市内で,日産自動車がNTTドコモと実験を進めている。

図2●日産自動車の「携帯電話協調歩行者事故低減システム」
車と人の位置情報と移動速度などから両者が出会う可能性を計算し,確率が高い場合はドライバーに警告を出す。
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出典:日経コミュニケーション 2008年12月15日号 pp.36-37
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。