技術が複雑化し、顧客からの要求レベルが高まっている。そんな中で、メンバー個々人の増力化と、チーム力の向上を図らなければならない。マネジャが抱える課題は増える一方だ。良書にはこうした課題の解決に向けたヒントが数多く盛り込まれている。ITリーダーにお薦めしたい書籍5冊をピックアップした。

イラストレーション:AKIRA
イラストレーション:AKIRA

 本来あるべき知的生産と研さんの喜び、協働で生まれる豊かな人間関係、バランスの取れた職務と生活のリズムを取り戻そう―。いまソフトウエア開発の現場では「人間性を取り戻すこと」が一つの潮流となりつつある。職業人としての喜びが増す開発プロジェクトのあり方、それを支える事業マネジメントのあり方を再考しようというものだ。

 「人間性を回復するマネジメント」という考え方の下、メンバー個々人の増力化、チーム力の向上、次世代リーダーの育成というテーマで、IT分野のリーダー層に読んでほしい書籍を選んだ。

最強の「学習する組織」を作る

最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か
最強組織の法則 新時代のチームワークとは何か
ピーター・M・センゲ=著
守部 信之ほか=訳
●徳間書店 発行
●本体1900円(税抜き)
●ISBN978-4-19-860309-0

 組織が自発的に学びと改善を続ける体質になったときに、その組織は初めてチームとして機能し始めたといえる。組織を機能させ、チームとして強化するための考え方が『最強組織の法則』には詰まっている。初版は1995年だが、以来変わらぬ支持を得ている。米マサチューセッツ工科大学の教授である著者のピーター・センゲ氏は本書で「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)」の構築が企業の生き残る道だと強調する。

 注目すべきは「メンタル・モデル」と「チーム学習」の重要性について指摘したことである。メンタル・モデルとはざっくり言えば「思い込み」。組織を構成する人々が潜在的に抱いている固定化されたイメージや概念を指す。例えば「我々の事業が国外市場の動向に影響を受けることはない」「顧客は商品の品質よりもスタイルを重視する」といったものだ。

 メンタル・モデルは組織の舵取りに大きく影響する。しかも求められるモデルは常に同じではなく、時代の変遷とともに変わる。組織のリーダーは自らの組織に内在するモデルを冷静に観察し、適切なものへと変えていく必要がある。

 チーム学習では組織がマスターすべき2種類の会議を提示している。「意見交換」と「ディスカッション」だ。意見交換は言ってみれば「対話」である。複雑で微妙な問題について、自由にかつ建設的に意見を述べ、同時に「聴く」会議を指す。ディスカッションは決定をサポートする会議である。

 本書では2種類の会議を意識して使い分けよと提案しているが、学習という切り口で特に注目すべきは意見交換だろう。センゲ氏は意見交換をネイティブアメリカンの習慣や専門家同士の対話になぞらえる。現代物理学に貢献した物理学者の談話を引きつつ、「対話によって科学者たちは有名な理論の多くを生み出した」と、洞察や思考が深まる対話の可能性を強調している。スピードが求められる現代では、ディスカッションばかりに目がいきがちだ。意見交換にも目を向けよというセンゲ氏の論は、なるほどと思わせる。

問題ではなく解決法を見る

解決志向の実践マネジメント 問題にとらわれず、解決へ向かうことに焦点をあてる
解決志向の実践マネジメント 問題にとらわれず、解決へ向かうことに焦点をあてる
青木 安輝=著
●河出書房新社 発行
●2200円(税抜き)
●ISBN4-309-24368-1

 50代にとって部下の指導は最も重要で悩ましい仕事の一つ。「たたいて伸ばす」という態度はもはや時代遅れになりつつある。

 『解決志向の実践マネジメント』が示す部下に対するマネジメント手法は注目に値する。「なぜダメなのか」に注目するのでなく「問題がすでに解決されている肯定的なイメージ」を先に作り、必要な行動ステップを割り出し、部下を望ましい方向に誘導する手法を提案する。

 この「ソリューションフォーカス・アプローチ」は、もともと心理セラピーの現場で治癒率の向上につながった手法である。肯定的な側面に焦点を当てるため、部下(クライアント)に不要なストレスをかけないのが特徴という。本文中では単なる考え方の紹介にとどまらず、マネジメント現場における過去の実例や対話の例題が示されている。特に「どん底チームの再活性化に成功したイギリスの工場」「業績評価は高いが態度評価が低い部下との評価面談」の個所が興味深い。

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