部下を変える方法は限界

 時代の変遷とともに、人々の価値観は多様化する一方だ。それはリーダーの目の前にいる部下たちにも例外なく当てはまる。同じ組織、同じプロジェクトに属していたとしても、メンバーが持つ価値観は一人ひとり違う。価値観の多様化により、違いはより大きくなっていく。

 こうした状況でリーダーが「自分が部下を変えてやる」という態度を取っても、モチベーションの喚起につながるとは限らない。むしろ逆効果になる可能性が高い。リーダーには、これまでとは違ったアプローチが求められているのである。

 そもそもリーダーが部下一人ひとりに対応するのは容易でない。部下の人数が多いと、より困難になる。一般に、ひとりのリーダーが直接管理できるのは8人程度といわれている。それより人数が増えてしまうと、部下のモチベーションの低下に気づかないかもしれない。システム・インテグレータで、部下がユーザー企業のオフィスに常駐している場合も、対応は難しい。

 部下が仕事に向いていないことがわかった場合も、先のアプローチは適切とは言えない。モチベーションを高めれば問題が解決するわけではない。むしろ一時的な空元気が、望ましいキャリアに変更するタイミングを遅らせてしまう可能性もある。

視点を外側から内側へと移す

 要するに、リーダーがあの手この手で部下を変えようとする方法はどうしても限界に突き当たってしまうのだ。つい最近までフォロワー(部下)でもあった筆者も、リーダーシップについて語る多くの書籍が「他人をどう変えるか」という視点から様々な方法を示していることに違和感を抱いていた。単純に、自分が誰かに変えられるのは気が進まなかったこともある。

 筆者自身が部下を率いるリーダーの立場になってからも、「カリスマ性のない自分にリーダーは務まらないのでは」と悩んだ。それも「リーダーとは他人を変える能力を持った人間」との考え方に影響を受けていたからだ。

 筆者は経営コンサルタント兼エグゼクティブ向けのコーチとして、日々多くの経営者と接している。対話を重ねるなかで、優秀な経営者には共通のパターンがあることに気づいた。他人を変える前に、まず自分を変えているのである。

 経営者が自ら、自己変革を進めて行動する。その姿を見ると、社員は変わっていく。行動には有無を言わせない説得力があるからだ。優秀な経営者はこのプロセスを通じて社員を変え、組織を変え、企業を変える。ついには企業をエクセレント・カンパニーへと変えていく。

 リーダーシップとは本来、率先して自己変革を進めることで、他者に良い影響を及ぼす能力や特質を指すのではないか。筆者はこう確信を抱くようになった。他人を変えるよりも自分を変えることのほうがより確実で、かつ大きな成果を呼び込むというのが、筆者の最近の考えである。

 そんななかで筆者は「内省型リーダーシップ」に行き着いた。内省型リーダーシップとは、香川大学の八木陽一郎准教授の実証研究に基づく、新しいリーダーシップ論である。深く内省していくことがなぜリーダーにとって必要な作業なのか。それが組織をどう好転させるのか。八木准教授との共同研究の成果も交えつつ、現在世間で言われているものとは全く異なるリーダーシップ像を説明する。

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