モバイル・インターネット市場の主導権争いは始まったばかり。競争がどう進展するかについては,パソコンやインターネット出身の企業が主導権を握るのか,それとも携帯電話事業者の影響力が依然大きいのか見方は様々だ。ただ,どのプレーヤも世界市場を強く意識する必要があることは間違いない。これまでは国内市場を中心に見てきた携帯電話事業者も例外ではない。オープン化とグローバル化が進展したとき,通信事業者の競争相手は国内の通信事業者だけでなく,世界規模で事業を展開するサービス事業者であり,端末メーカーであるからだ。

 アップルやグーグルの参入に見るように,端末とサービスの分野では国境を越えた競争が当たり前である。一方で無線の周波数免許が必要な携帯電話事業者のインフラは地理的に限定されており,国や地域ごとの規制を受ける。他国の通信事業者に出資するにしても,様々な条件をクリアしなければ,主導権を握れるほど出資比率は上げられない。ユーザー獲得という点で携帯電話事業者は,国境を越えて規模を拡大する他のレイヤーのプレーヤよりも不利だ(図1)。

図1●グローバルな競争上,携帯電話事業者は不利な立場にある
無線周波数免許が必要な通信事業者のインフラは地理的に限定。国や地域ごとの規制を受ける。
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 ユーザーが発信する情報が主要なコンテンツ要素となる“Web2.0”時代のコンピューティング環境では,ユーザーが多いほどサービスの魅力も増す。一方でユーザーが少ないサービスは隅に追いやられてしまう。

 だからこそ携帯電話事業者も何らかの方法で国境を越える工夫が必要になる。英BTグループ テクノロジー&イノベーションのヨン・キム日本・韓国担当副社長は,「携帯電話事業者も航空会社のように,事業者間でアライアンスを組む時代がやってくるだろう」と予測する。業務連携によってユーザーを拡大すれば,端末メーカーや通信装置メーカーとの機器調達,あるいはサービス事業者やソフトウエア開発者との提携交渉を優位に進められる。

7億人の事業者アライアンスも誕生

 ソフトバンクが,ボーダフォンや中国移動(チャイナモバイル)と共に2008年4月に立ち上げた合弁会社「ジョイント・イノベーション・ラボ」は,携帯電話事業者による国際アライアンスの先駆けと言える。

 同ラボでは,端末のOSに依存せずにコンテンツやサービスを共通化できるプラットフォームの開発を進めている。3社を合計すると約7億人にも上るユーザー基盤を武器に,アプリケーション開発者を呼び込むことが狙いだ。「7億人のユーザーを相手に商売をできるとなれば,アプリケーション開発者も喜んで我々の仕様に沿ったものを作ってくれるだろう」(ソフトバンクの孫社長)。

 無線周波数免許とは無関係なアプリケーション・レイヤーの事業をグローバル展開する可能性もある。日本通信の福田尚久常務取締役CMO兼CFOは,「例えばNTTドコモのiモードのような上位レイヤー事業を分離し,サービス・プラットフォーム事業として単独で海外展開する。カーナビなどにも移植することで,海外事業に足がかりを築けるのではないか」と説明する。

 モバイルビジネスのさらなるオープン化とグローバル化が目の前に迫った今,携帯電話事業者をはじめ多くの企業が過去の事業モデルを見直し,これまでとは違った新しいモデルを描く時期に差し掛かっている。

この記事は,『日経コミュニケーション』2008年10月1日号 pp.32-45に掲載された内容を再編集したものです。