誰でも失敗はしたくない。だが「仮説は外れるもの」であり,計画した通りに進まないことが多い。計画の実行段階においては,仮説を検証しながら進めていくのが,これまで述べてきた「仮説指向計画法」だ。この仮説検証プロセスは,計画の成功率を高めるだけでなく,組織の意思決定力を高める手段でもある。

小川 康
インテグラート 代表取締役社長



 前回までに,計画のフレーミングから意思決定まで,一連のプロセスを紹介してきました。その中で最も重要なポイントは,「計画通りに行かないことをあらかじめ想定する」ということでした。例えば,「ある値になる」と断言できないデータについては,「無理に一点読みせずに幅で表現する」という手法をご紹介しました。また,マイルストン計画法は,「あらかじめ仮説を検証するタイミングを計画しておき,外れた仮説を考慮して,必要があれば計画を修正する」という計画法でした。

 このような手法は,1つの計画を成功に導くものとして有用と考えられます。今回は,連載の締めくくりとして,この手法の意味するところを,具体例によって掘り下げ,さらに継続的な組織学習に結びつけるためのヒントを探ります。

 まずは連載当初から紹介してきた大手化学メーカーA社の新規事業プロジェクト・メンバーの会話を聞いてみましょう。

事業開始3カ月後の衝撃◆「全然ダメです…目標に届きません」

 佐藤課長と鈴木主任の新規事業提案は,「初期投資を大幅に削減し,顧客の反応を調査する初期サイト(調査目的で作成したインターネット・サイト)を立ち上げ,そこから段階的に事業を拡大する」というように計画を修正し,経営戦略会議の承認を得ることができた。

 さて,計画がスタートして3カ月が経ち,佐藤課長と鈴木主任は,最初のマイルストン,すなわち計画時に立てた仮説を初めて検証する時期を迎えた。佐藤課長は,事前に作成していた「マイルストン検証」のドキュメントを参照しながら,事業の進行状況を尋ねた(図1)。

図1●新規事業プロジェクトで作成した「マイルストン検証」
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「鈴木主任,今日のマイルストン打ち合わせは,計画とのずれを確認し,ずれていたら対策を検討するのが目的だ。さて,検証対象リストの最初にあるサイト・アクセス数だけど,計画値は1万アクセス/日だったね。この3カ月の実績値はどうだったかな?」

 打ち合わせが始まる前から鈴木主任の表情は曇りっぱなしだったが,佐藤課長からの問い掛けにより,苦々しい表情に変わった。

「佐藤課長,全然ダメでした…。平均8236アクセスです」

 佐藤課長は「あれっ?」と内心驚いた。しかし,「仮説は外れるものだ」とコンサルタントの高橋氏から聞いていたため,表情を変えずに次の検証対象について実績値を尋ねた。

「では,申し込み会員数はどうだった? 合計で1万5000人が目標だね」

 鈴木主任の表情は相変わらず苦々しいままで,次のように答えた。

「これもダメでした…。1万2225人です」

 検証対象としていた11 項目の仮説をすべて検証したところ,実に9項目が下方修正されることになった。佐藤課長はもう動揺を隠せなくなっていた。さらに悪いことに,その下方修正されたデータを用いて試算すると,計画の目標に対して,利益率が25%程度下がる見込みとなることが分かった。

「これは困ったな。どうしようか…」

 佐藤課長が深いため息とともに,つぶやいた。この「どうしようか」には,何やら良からぬ含みが感じられたが,鈴木主任はぴしゃりとはねのけた。

「どうしようかと言われても,どうしようもないですよ。つじつま合わせをしようとしても,何もかも丸見えですからね!」

 佐藤課長は,重苦しく「ん~」とうなり,さらに深いため息をついた。

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