次に登場するのは,中堅ソフトハウスの役員をしている沢田健一さん(仮名)。あるプロジェクトに沢田さんのソフトハウスは下請けで参加し,5人のエンジニアをプログラマとして送り込んでいた。

それっきり何の回答も得られない

 プログラマの役割は,仕様書通りにプログラムを作成することである。だが5人は,渡された仕様書を読んで不安を抱いた。既存システムからデータを取り込んで処理するプログラムだが,取り込まれるデータは,必要な項目がそろっていることを前提としていたからだ。

 そこで5人は,元請けのプロジェクト・マネージャに確認する。「既存システムから渡されるデータは,必要な項目がそろっているのでしょうか?もしそうでないなら,この仕様では不十分です。データ・チェック機能がありません。この仕様のままプログラムを作成した場合,項目の抜けたデータが渡されると動作を保証できません」。そのときプロジェクト・マネージャは「後で確認しておくよ」とそっけなく答えた。

 だが,それっきり何の回答も得られない。予定の開発期間でプログラム開発を終えなければならないので,5人は次第に焦りだす。5人はプログラマとしてプロジェクトに参加しており,ユーザー企業の担当者に直接会う機会がない。プロジェクト・マネージャに回答をもらえるように迫っても,「今は忙しいので,後でいいかな」といった返事しかない。なぜこんな大事なことを後回しにするのか,5人にはまったく理解できなかった。

 結局,プロジェクト・マネージャから明確な返事をもらえないままプログラム開発期間が終了。5人は仕方なく,当初の仕様通りにプログラムを作成して納めた。

「追加の予算はない」の一点張り

 この後の経緯はプログラマには分からないが,システム・テストになって既存システムとつなげたとき,エラーが続出したと聞いた。5人の不安は現実のものになった。しばらくしてプロジェクト・マネージャから沢田さんに連絡があり,「システム・テストで問題が見つかったので修正してほしい。だが修正に対する追加費用は支払えない」と告げられる。

 聞けば,問題というのはプログラマの不安そのもの。「100%こちらが悪いのであれば,プログラムの修正を追加費用なしで実施します。ですが今回は違います。見つかった問題は,うちのメンバーが前々から指摘していたものじゃないですか」。普段は温厚な沢田さんだが,このときばかりは怒りを抑えられないでいた。「しかも,その問題を回避するために,ユーザー企業への確認を何度もお願いしていました。だが返事をいただけず,そのままプログラムを納品せざるを得ませんでした。そういう経緯がある以上,タダで修正することは受け入れられません」。

 プロジェクト・マネージャは仕様の不備を認めたものの,「追加の予算はない」の一点張り。プログラムを修正しなければ多くの人に迷惑をかけてしまうことになる。それは望むところではないので,費用の交渉を棚上げにして修正作業を行った。

 交渉は1カ月に及んだものの,プロジェクト・マネージャはまったく態度を変える気配がない。最終的には,ユーザー企業からの支払いが上積みされたので,沢田さんらはいくらかの金額を追加で受け取ることができた。十分な対価とは言えないが,タダ働きはかろうじて回避できた。

 だが,「当社のプログラマは着実に仕事をこなしたにもかかわらず,不条理な無償対応を迫られた。そのことに正直言ってやり場のない憤りを覚えた」と,沢田さんは振り返る。

沢田 健一さん(仮名)
沢田 健一さん(仮名) 中堅ソフトハウスの41歳の役員。大手システム・インテグレータが元請けとなったWebシステム開発プロジェクトに下請けとして参加。プロジェクトではプログラム開発を担当し,プログラマ5人をプロジェクトに派遣
出典:日経SYSTEMS 2007年4月号 p.264
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