iモード,EZweb,Yahoo!ケータイ──。アップルにとって,これらを代替するアプリの流通システムが「App Store」である。新たな市場への広がりが期待でき,配信までの手間もかからないといった点が評価され,多くのソフトウエア開発者がiPhone向けアプリの開発に取り組み始めた(図1)。

図1●SDKで開発したアプリをApp Storeで販売
ソフトウエア開発者は米アップルが配布しているiPhone SDKを使って開発する。Macintosh用のアプリケーションを開発するためのSDKをベースとしている。作成したアプリは有料もしくは無料でApp Store上で配布できる。
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世界に向けたアプリ配信の道を開く

 現在多くの開発者が,従来の携帯電話に向けたアプリ開発に閉塞感を感じ始めている。国内の携帯電話向けにもゲーム・アプリを配信しているセガ モバイル統括部モバイル制作部の塚本一成部長は,ユーザー数が伸び悩み,売り上げが飽和状態になっていると打ち明ける。「既に国内で携帯電話の契約数は1億台を超え,これ以上ユーザーが爆発的に伸びる理由はない。数年前はアプリを作れば作るだけ伸びていったが,今はそうではなくなってきた」という。

 ユーザーの奪い合いも激しさを増している。従来は,iモードなど公式サイトでアプリを配信する方法が一般的だったが,「モバゲー」などの無料ゲームを配信する一般サイトが登場し人気を博している。さらに,ニンテンドーDSやPSPなど携帯ゲーム機が普及。「ユーザーがゲームに触れる時間の取り合いになっている」(サン電子 デジタルコンテンツ事業部 グローバル・マーケティンググループ 水野政司リーダー)という傾向がある。

 国内のアプリ販売が頭打ちとなれば,海外に販路を広げる手もある。ところが,海外の事業者に向けてアプリを提供するには,これまで大きな困難があった。「契約を獲得するために現地法人を立ち上げ,現地の携帯電話事業者と交渉するなど,膨大な手間とコストがかかる」(ユビキタスエンターテインメントの清水亮代表取締役社長兼CEO)からだ。

 それに加えて,一般に海外の携帯電話事業者を介してアプリを販売する場合,事業者に支払う手数料額が高い傾向があるという。「国によっては,50%を徴収する事業者もいる」(サン電子の水野リーダー)。海外では,スペックが異なる複数の端末にアプリを対応させる苦労も多い。国内では携帯電話事業者が主導して端末の仕様を取りまとめるが,海外ではそのようなケースは少ない。同時期に出荷された端末でも,メモリーの容量やOSのバージョン,画面サイズなどがバラバラ。日本国内で販売される端末以上に動作検証の手間がかかり,場合によっては機種ごとに個別のアプリを用意しなくてはならないという。

 iPhoneではこうした苦労をかけずに,海外に向けてアプリを配信できる(図2)。App Storeは世界62カ国・地域のユーザーが利用可能。プラットフォームが統一されているので,機種の違いを検証する必要はない。「アップル1社と取り引きするだけで,欧米など全世界に発信できる。アプリ流通の大改革といえる」(ユビキタスエンタータインメントの清水社長)と評価する声は多い。

図2●iPhoneを世界展開の足がかりに
国内の携帯電話事業者向けのアプリ開発は急激なユーザー層の増加が望めない。iPhone向けにアプリを開発すれば,コストや手間を抑えながら,世界に配信できる。
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 アップルがアプリの売り上げから徴収する手数料の比率は30%。国内の携帯電話事業者の場合は約10%なので,単純に比較すると高い。それでも,海外展開をするコストを考えると十分安いと多くの開発者は口をそろえる。

出典:日経コミュニケーション 2008年8月15日号 pp.24-25
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。