Excelの活用で、多くの現場は生産性の向上という果実を手にした。しかしデータ量やユーザー数の増大など、取り組み始めた当初と前提条件が大きく変わると運用面で壁に突き当たってしまう。日産自動車とリクルートはユーザー環境の変化を最小限に抑えながら、そうした壁を取り除いた。ユーザーからみれば “楽”に劇的な生産性向上を果たしたわけだ。

Excelの“化け物”が限界に

 「もはや限界。Excelの化け物に成長してしまった」。日産 グローバル情報システム本部エンジニアリングシステム部の神戸政一郎主担はこう語る。

 同社の設計から開発試作工程では、エンジニアがExcelを一斉に操作する。設計が決まってから市場投入までの期間を大幅に短縮する全社プロジェクト「V-3P」のためだ。

 まずプロジェクトマネジャが巨大なマスターファイルをベースに騒音・振動や衝突、動力といった性能単位にExcelファイルを作成。性能設計者が目標値を入力する。同じファイルに部品設計者が対応策とその実現度合いを入れ、実験担当がコンピュータシミュレーションやフィジカルテストの結果を反映させる。最後に複数のExcelファイルやシートを統合し集計する。

 すでにノートやスカイラインなど4車種に適用し成果が上がっている。従来なら20カ月はかかっていた市場投入期間が、実車の試作を減らせることで半分に短縮した。問題は、V-3Pの全車種展開で起きた。現場がExcelファイルに振り回されてしまったのである。

 Excelに記載する評価項目は1車種当たり数万。テスト段階数も数百ある。つまり数万行×数百列のExcelシートになる。全車種となると関係するエンジニアは日米欧で1万人。それだけ巨大なファイルを大人数で共有する。

 全車展開前から問題だったのが、ファイルが大きくてクライアントパソコンがフリーズしてしまうこと(図3(1))。複数のエンジニアがアクセスするため、他人がアクセス中は待たされたり、誤って上書きされたりした(同(2))。適用車種が増えると、部品設計や実験の担当者は自分が関係するExcelファイルをファイルサーバーから見つけ、その中で自分の担当するセルを検索する手間が急増した(同(3))。

図3●日産は1万ユーザーの入力するExcelシートの集計作業時間を1日から数分まで省力化した
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 さらに悲惨なのが責任者だ。巨大・大量なExcelファイルを統合し集計しなければならない。未入力や入力ミスの項目は、修正または再入力を依頼する。完了の項目に○、×以外に言い訳を書き込んだり別の記号を入れるエンジニアもいる。集計は外部スタッフを2人雇い、それでも丸1日かかった。また、プロジェクトごとに集計項目が変わるため、集計や統合用のマクロをその都度修正する必要があった。

DB集約で1万人の衝突を回避

 対応策を考えたとき、当然ながらWebアプリケーションで置き換える案が出た。しかし、Excelのファイル共有による業務フローを作ったときからシステム化の構想があり試行錯誤したが完成しなかったという経緯がある。最大の理由は、設計検討段階の業務は非定型だということ。エンジニアが色々なアイデアをどう実現するかが重要で、その進捗や管理項目はプロジェクトごとに大きく異なる。だからシステム化しづらかった。現場の問題もあった。エンジニアは使い慣れたExcelを使いたい。ユーザーインタフェースが大きく変わることは避けたかった。

 採用したのは、ExcelのデータをXML化してデータベースサーバーで集中管理する仕組みだ(図3右)。XMLであれば、データの構造や意味を自由に定義できる。Excelで行や列の追加、削除、移動をしても問題ない。これをXMLデータベースで管理することで現場は、自分に必要なデータだけを Excelにダウンロードできるようになる。ローカルファイルは小さく、他人と競合するケースも少ない。Excelをそのまま使っているため、「システムが変わったことに気づかないユーザーもいる」(神戸氏)。最も恩恵を受けたのは責任者だ。入力チェックも集計もデータベース側で自動的に行われる。2人の外部スタッフは必要なくなり、それでも1日かかっていた集計作業はものの数分にまで短縮できた。

 新しい仕組みは日本IBMとベンチャーのアドスが構築し、昨年12月に稼働した。導入費用は2000万~3000万円(本誌推定)。50人月程度の人件費削減の効果があると見込んでおり「ほぼ達成できている」(神戸氏)という。50人月を年間約4人分とみれば、3000万円の投資でも1~2年で回収できる。

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