櫻庭秀次/インターネットイニシアティブ メッセージングサービス部
サービス推進課シニアプログラムマネージャ

 4回にわたって,迷惑メールの送信手法や技術的な解決策について解説を加えてきた。最終回である今回は,法律や対応組織など,迷惑メール対策を推進する環境の最新動向について述べたい。

 日本での迷惑メールに関係する法律としては,特定電子メール法(正式名称は「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」)と特定商取引法(同「特定商取引に関する法律」)がある。それぞれ総務省と経済産業省で2007年から改正案が検討され,先の国会で可決されたことにより2008年末の施行が予定されている。

 2007年2月に,迷惑メールへの対処を目的とする国際的な団体であるMAAWG(Messaging Anti-Abuse Working Group)のGeneral Meetingのパネル討論に参加した際,日本での迷惑メール送信に関する罰則について聞かれたことがあった。当時の特定電子メール法では「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」であったためそう答えると,質問された相手にちょっと苦笑されてしまった。というのも,ちょうどそのころ,米国カリフォルニア州で逮捕された迷惑メール送信者が,他の容疑と合わせて懲役101年になる可能性があるとの報道がなされた時期だったからである。

 それぞれの国の背景や法制度の違いがあるので単純に比べられるものではないが,罰則だけを比較した場合,迷惑メール送信に関して日本の法制度は不十分であるような印象を与えてしまうのは事実だろう。しかし,その米国にしても迷惑メール送信国として常に上位に位置しており,罰則が厳しければ迷惑メールが無くなるという単純な問題ではない。

 迷惑メールを根絶させるには,法制度とその実効性,それを支える技術的な対策と運用面での連携が効果的に機能することが重要であり,国内だけでなくグローバルにおいても機能させることが重要である(図1)。

図1●総合的な迷惑メール対策の枠組み(総務省の資料を基に作成)
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 今回は,より広くメール一般を対象にしている特定電子メール法改正のポイントと,民間レベルおよび公的機関での迷惑メールに対する取り組みについて紹介しよう。

改正により3つの点で大きく進化する「特定電子メール法」

 特定電子メール法における特定電子メールとは,いわゆる広告宣伝を目的としたメールのことだ。文面自体に営業的な内容が書かれていなくても,その手段として送信されるメールも対象として含まれる。例えばコミュニティサイトの紹介のようなURLを表示しているメールであっても,そのサイトが営利を目的としたものであれば,特定電子メールとして判断される。

 今回の法改正のポイントは,大きく3点ある(参考資料)。

 一つは,特定電子メールに関して,あらかじめ送信に同意した者に対してのみに送信を認める「オプトイン方式」を導入することである。これまでは,「未承諾広告※」という文字列をメールの件名(Subject:ヘッダー)に付加して特定電子メールである旨を表示すれば,あらかじめ送信に同意していない相手にも特定電子メールを送信して良いことになっていた。メール受信者がそのメールを不要と判断した場合は,その旨を連絡する。この方式は「オプトアウト方式」と呼ばれる。

 しかし改正法が施行された後はオプトイン方式が原則となり,「未承諾広告※」を付加しても送信に同意していない相手には特定電子メールを送信できなくなる。また特定電子メールの送信者側は,今後,この同意があったことを証明する記録の保存も必要となる。

 もう一つは,送信者情報を偽ったメールが拒否できるようになる点である。これまでは,多数のあて先不明のメールが送信された場合には受信拒否できることになっていたが,これに送信者情報が詐称された場合も加わる。また,送信者が法人であった場合には,罰金の上限が100万円から3000万円に引き上げられた。

 ひと月に数億円を稼ぐと言われている迷惑メール送信業者にとっては,あまり影響の無い範囲の額かもしれないが,少なくとも興味本位でやってみようかと考える業者に対しては,多少なりとも抑止効果があるのではと期待している。また,日本での罰則規定が引き上げられるという事実は,少なくとも海外に対する日本の姿勢を示すことにもなり,その意味でも意義は十分あると考えている。

 3番目のポイントは,海外の執行機関との情報交換を行うことをできるようにする点である。現在,迷惑メールの多くは海外から送信されてくる。国内の対策を,法的及び技術的に強化することはもちろん十分意味があるが,グローバルにつながっているインターネットにおいて,海外からの迷惑メール送信を止めない限り,日本で受信する迷惑メールの量は減らない。このため,ここも重要なポイントとなるであろう。

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