大手レコード会社の持つ,すべての音楽がまるごとタダで聴けるようになる。しかも合法的にだ。

 世界最大のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス),米「MySpace」が2008年9月に開始予定の音楽配信サービス「MySpace Music」(仮称)は,これまでの常識を覆すものだ。世界4大レコード会社のうち3社と提携し,彼らが持つ全ての楽曲をMySpaceサイトから無料でストリーミング配信する。これは音楽レコード産業が従来の小売りから,ライセンス・ビジネスへと移行する引き金になるだろう。音楽や動画など各種コンテンツが公共サービスと化し,その上に新たな付加価値サービスが構築される2層の産業構造が姿を現しつつある。

 MySpaceは,米Universal Music,米Sony BMG,米Warner Music,英EMIの世界4大レコード会社のうち,EMIを除く3社と提携。来る9月から,3社の音楽カタログに含まれる全ての楽曲を,MySpaceのサイト上から無料でストリーミング配信する見込みだ。また残されたEMIがこの仲間に加わるのは時間の問題と見られている。この4社の売り上げを足し合わせると,世界の音楽レコード市場の約8割を占める。また日本市場でも,上位5位の中に,4大レコード会社の日本法人が全部ランクインするなど,圧倒的な力を持つ。

 このMySpace Musicというサービスが始まれば,国内外を問わず世界に出回る音楽の大半が,インターネットからタダで聴けることになる。もっとも,日本でこのサービスが提供されるかどうかの公式発表はないが,4大レコード会社にしても,ビジネスの世界的な整合性をとる上で,いずれ日本でもMySpace Musicを開始すると見ていいだろう。

 MySpace Musicでは,広告が主たる収入源になる。ほかにも着メロや携帯プレイヤーで聴く音楽の有料ダウンロード配信,あるいはTシャツなどアーティストのキャラクター商品やコンサート・チケットなど,様々な音楽関連商品の販売も行う。つまり無料の音楽で客を引き寄せ,その場で広告と各種Eコマースを組み合わせることによってお金をもうけようとしている。

 こうした画期的なサービスに音楽の使用ライセンスを提供したレコード業界は,音楽レコード(recorded music)が独立した商品として成立しなくなったことを,自ら認めたようなものだ。何が,彼らをここまで追い詰めたのだろうか。

音楽配信が伸びても産業全体の売り上げ低下に歯止めかからず

 日本や欧州諸国と同じく,いやおそらくそれ以上に米国の音楽レコード産業は深刻な凋落傾向にある。CDを中心とする音楽ソフトの出荷額は,1999年の145億8000万ドルをピークに翌年からほぼ毎年下がり続け,2007年は103億7000万ドルとなった。この8年間で音楽レコード市場の約3分の1が失われたことになるのだ(図1)。

図1●米国の音楽ソフトの出荷額の推移(オンライン配信を含む)
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 背景には,いわゆるファイル共有(file sharing soft)を筆頭とする,デジタル・コピーのまん延がある。それは日本のようにレンタルCDから人手を介して次々とコピーされる場合もあれば,米国のようにファイル共有やSNSに乗って一気に伝染する場合もある。つまりリアルとバーチャルの両空間を通して,音楽のデジタル・コピーが無限に増殖する仕組みが出来上がってしまった。常識的に考えて,これがレコード会社の発売する正規音楽ソフトの売り上げに影響を与えないはずがない。

 これに対しRIAA(全米レコード協会)を代表とする米音楽レコード業界は,当初,訴訟で対処しようとした。つまりNapsterやKazaaなど巨大なファイル共有サービス業者を訴訟で潰すと同時に,それらのユーザーも個別に告訴し,ファイル共有の使用をけん制した。しかしファイル共有サービスの業者もそのユーザーも余りに多過ぎて,根絶は不可能だった。このため音楽ソフトの売り上げは,その後も落ち続けている。

 こうした中,音楽レコード業界は違法コピーへの対抗措置と並行して,インターネットを使った音楽配信にも乗り出した。そこには米Appleの「iTunes」が大きな貢献をしていることは言うまでもない。これにけん引される形で欧米や日本の音楽レコード市場では,オンライン配信の売り上げが順調に伸びている。しかし問題は,それでも音楽ソフト全体の売り上げ低下に歯止めがかからないことだ。つまり新しいビジネスが芽吹き,育っているにもかかわらず,それが業界全体の地盤低下を食い止められない。これは単なる業績不振以上に深刻な事態である。音楽レコード産業の未来が,縮小均衡に陥る兆しが見えてきたのだ。

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