本体価格が8Gバイト(8GB)モデルで2万3040円,通信料は月額7280円──。ソフトバンクモバイルは「iPhone 3G」の価格を,既存の携帯電話と同等の水準に収めた。従来と異なるのは,データ通信料を従量制ではなく,定額としたこと。値ごろ感のある価格を提示しながらも,安定した収益を得る絶妙な価格設定と言える。

 iPhone 3Gの販売手法は,ソフトバンクモバイルの従来の携帯電話と同じである。割賦払いで頭金なし。24回の特別割引として,通信料から一定額を割り引く(表1)。この特別割引の仕組みをうまく利用し,米アップルのスティーブ・ジョブスCEOが発表した199ドルと同等の2万3040円を提示した。「こうした特別割引の枠を持っていないNTTドコモやKDDIと比べて, iPhoneを導入しやすかったはず。従来の端末と実質負担額に大差がなく,ほかのメーカーからも反発を買わないだろう」(リーマン・ブラザーズ証券 株式調査部 津坂徹郎 ヴァイスプレジデント,アナリスト)と専門家は評価する。

表1●iPhoneの通信料と端末料金を従来の端末と比較
各社のタッチパネル搭載機で,フルブラウザを使う場合の料金例を比較した。通信料と端末料金を合計した月ごとの総額は,iPhone 3G 8GBモデルで8240円。これに対して,SoftBank 921SHは3504円~8460円とデータ通信の利用状況によって料金の幅が出る。価格は音声通話料の超過分と手数料は含んでいない。
[画像のクリックで拡大表示]

定額プランへの加入が必須

 iPhoneのデータ通信料は月額固定の5985円である。iPhoneの契約時にはこの定額プランへの加入が必須となる。従来のスマートフォン向けプランでは上限が9800円だったため,比較すると割安感がある。加えて孫正義社長は「iPhoneは通常の携帯電話と比べて10倍から20倍くらい通信容量は増えるとみている。それでも料金は固定」とユーザーの利益を強調する。

 携帯電話を音声通話中心で使っていた人であれば,音声とデータ通信合計で7280円という通信料は高いと感じるかもしれない。「まずはその通信料でも使う上位ユーザーを狙うのだろう。その後はユーザーの幅を広げるため,利用量に応じてデータ通信料が安くなる料金プランなど,次の施策を打ってくる可能性もある」(野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部 コンサルティング事業本部 上級コンサルタント 北俊一グループマネージャー)。

iPhoneの部品コストは173ドル

 今回の価格付けで,アップルやソフトバンクはどう収益を得るのか。2007年6月に米国で発売となった初代iPhoneでは,ユーザーが支払う通信料を通信事業者とアップルで折半するレベニュー・シェア方式を取っていた。しかし,今回はこれを撤廃した。「いくら革新的な端末といっても要求しすぎだった。多くの事業者の参入を促すには,モデルの見直しが必要だった。同時に,価格を下げて爆発的に売れたほうがいいと判断したのだろう」(リーマン・ブラザーズの津坂アナリスト)。

 確かに8GBで2万3040円というのは,端末価格だけみれば安い。同じ容量のフラッシュ・メモリーを搭載したiPod touchは7月上旬時点の店頭価格が約3万7000円だ。「邪推だが,iPod touch向けに確保していたメモリーや部材を買い叩いたと考えれば納得がいく」(日興シティグループ証券 株式調査部の山科拓ディレクター)。

 調査会社の米アイサプライによると,iPhone 3Gの部品原価は173ドルだという(表2)。この原価は,ソフトウエアの開発費や流通コストは含んでいない。「携帯電話で一番大きなコストは開発費だが,将来的に数千から一億という単位で売れるなら,1台当たりの開発費は薄くなる。損益分岐点を越えれば,そこから先はかなり収益が出る」(リーマン・ブラザーズの津坂アナリスト)。

表2●調査会社の米アイサプライが試算したiPhone価格の内訳
フラッシュメモリーや液晶ディスプレイ,カメラ・モジュールなど各種の部品価格と組み立てコストを足し合わせるとiPhone 3G 8GBモデルの原価は173ドルになるという。
表2●調査会社の米アイサプライが試算したiPhone価格の内訳

 レベニュー・シェアの代わりに,アップルは事業者から1台当たり300ドル程度の補助金を得る。さらにiPhoneのアプリケーションをダウンロード販売するサイト「App Store」を用意,アプリケーション開発者からソフトウエア代金の3割を徴収する仕組みとした(図1)。低廉な端末価格の背景には,こうした収益源の多様化があるのだろう。

図1●製造からユーザーに届くまでのコストと料金
米アイサプライの試算によるとiPhone 3G 8GBモデルの卸価格は499ドル。ソフトバンクモバイルは端末料金と通信料で十分に元が取れる。
[画像のクリックで拡大表示]

ARPUの押し上げ効果を見込む

 ソフトバンクにとっても,iPhoneでは十分に収益を期待できる。アイサプライによると,事業者がアップルに支払う卸価格は約499ドル。ソフトバンクの実質販売額は2万3040円のため,これだけでは利益が出ないが,26カ月の特別割引期間で,約19万円の通信費が入る。しかも定額なので,安定した収入が得られる。販売台数が伸びれば,ソフトバンクの弱点であったARPU(1契約者当たりの平均月間収入)の引き上げも期待できる。

 iPhoneの国内販売台数は当初1年間で100万台前後という見方が多いが,業界内ではアップルからの供給量が少なく,販売台数が伸び悩むと懸念する声がある。供給量が読めないために「発売前の予約はソフトバンクに禁止された」と,ある販売店関係者は打ち明ける。ただ,ソフトバンクが宣伝効果を狙って「あえて流通量を絞って品薄感をあおることも考えているだろう」(ある業界関係者)という観測もある。

 iPhoneの発売当初は熱心なファンが飛びつくことは間違いないが,中長期的に一般の携帯電話ユーザーにはどれだけ広がるのかはまだ見通せない。通信量が多くネットワークに負荷をかけるのでは,という懸念もある。これらをソフトバンクがどう乗り越え,iPhone事業をどこまで伸ばしていくかに注目が集まる。

出典:日経コミュニケーション 2008年7月15日号 pp.20-21
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。