大きな節目を迎えているのは事業者も同じだ。契約数の大きな伸びが今後期待できないにもかかわらず,料金競争が過熱している。発端は,ソフトバンクモバイルが2007年1月に開始した基本料が月額980円の「ホワイトプラン」。この勢いに押され,NTTドコモとKDDIは対抗値下げを余儀なくされた。

 料金競争はデータ通信でも進んでいる。イー・モバイルが2007年3月に定額制で新規参入すると,NTTドコモとKDDIも2007年後半に定額制を導入して追随した。2009年以降はモバイルWiMAXや次世代PHSの商用化も始まり,さらなる競争激化が予想される。契約数は伸びないのに,ARPU(ユーザー当たりの月間平均収入)がじわじわ下がっていく。

 さらに,既存のビジネスモデルの見直しを事業者に迫る動きが顕著になってきた(図1)。端末からサービスまで事業者がまとめて提供する現行の“垂直統合型モデル”から,様々な新規プレーヤが端末やサービスを展開できる“オープン型モデル”への移行である。

図1●揺れ動き始めた携帯電話のビジネスモデル
端末やアプリケーションを自由に接続,利用できるようにする動きが進む。
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 国内では,総務省がオープン化を推進している。同省は新規プレーヤを呼び込むことでモバイル市場全体の活性化を図る構えで,次々に施策を打ち出した。 2007年9月には各事業者に分離プランの導入を要請し,端末を事業者と結び付ける要因となっている販売奨励金制度にメスを入れた。同時にMVNO(仮想移動体通信事業者)の参入を促進することで,設備を持たない事業者でも携帯電話を使うサービスを展開可能にした。

 さらに2008年2月からは,携帯電話事業者が持つ認証・課金やユーザーの所在地といった各種情報を,コンテンツ・プロバイダなどが活用できるようにする議論を開始した。

メーカーが主導権握るケースも

 海外では,メーカーが主導権を握って携帯電話サービスを展開するケースも出てきた。例えば,米アップルが2007年6月に米国で販売を開始した「iPhone」がある。米国では通信部分をAT&Tワイヤレスが提供しているが,iPhoneで発生した通話料やデータ通信料の一部をアップルが徴収する契約になっている。端末メーカーが通信事業者と収益を共有するモデルは従来なかったものだ。

 新規プレーヤの参入を後押しする動きは,端末やアプリケーションの分野でも進む。2007年11月に米グーグルを中心とした「OHA」(Open Handset Alliance)が発表した携帯電話端末向けの開発プラットフォーム「Android」がその代表例だ。ベンダーやメーカーはオープンソースの Androidを採用することで端末やアプリケーションを安価に開発できるとともに,端末開発をサービス開発から切り離せるという期待感がある。

 検討すべきことは多いものの,新規参入者を呼び込むオープン化の流れは,基本的には端末やサービスの多様化,料金や価格の低廉化をユーザーにもたらすものであり,逆らうのは難しい。事業者も端末メーカーも,正面から取り組む必要がある。

再成長に向けて今こそ舵を切れ

 市場が成熟したときに重要なのは,製品やサービスを多様化し,顧客の満足度を上げること。NTTドコモの中村社長は「これからは,一人ひとりのユーザーのニーズに応えていくことが価値になる」とする。

 端末メーカーは部品やソフトの共通化を今以上に進め,少量多品種の端末を安価に生産できる体制の構築を急ぐ必要がある(図2)。それには「何から何まで自社で開発するという従来の“もの作り”の発想を捨てることが必要。他社と差異化できる技術の開発に専念し,それ以外の部分は外部に出すことで開発コストを抑える」(SOZO工房の太田清久・取締役パートナー)のだ。多くの種類の製品を安価に生産できれば,ヒット商品が出る可能性も高まる。ヒット商品を生み出せば海外進出の芽も出てくる。

図2●成長のシナリオを描くメーカーと事業者
メーカーはこれまで以上に独自性を強く打ち出した端末開発で海外へ進出,携帯電話事業者はID情報や顧客基盤を生かして新サービス/新ビジネスを創出することが,今後の継続的な成長に向けた活路となる。
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 一方,事業者は「契約数×ARPU」の拡大にとらわれず,新たな収益源を開拓する必要がある。事業者の最大の強みは1000万単位の顧客を抱えていること。しかもユーザーは携帯電話を肌身離さず持ち歩いている。この特性を考えると,事業者の次の焦点がクレジットや販売支援,広告事業に代表される, ID情報(電話番号やICの固有番号)や位置情報を生かした「新規ビジネスの創出」に移るのは間違いない。

出典:日経コミュニケーション 2008年5月1日号 pp.28-29
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。