メーカー同士の競争や将来のオープン化に備えてか,国内の端末メーカー各社はそれぞれで独自色を打ち出し始めた(図1)。いずれも,自社およびグループ企業が保有する他事業との連携を強く意識している。

図1●主要な日本メーカーの国内戦略
これまでは事業者に端末を卸すOEMベンダーという性格が強かった。しかしここ最近,各メーカーは生き残りを賭け,社内の他部門やグループ企業と連携して独自色を強調する方向に舵を切っている。
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 AV機器メーカーは,各種デジタル家電と携帯電話の連携を検討している。例えばパナソニックモバイルコミュニケーションズは「松下電器産業のデジタル家電開発部門と,機器連携を議論するタスクフォースが活動している」(星副社長)という。シャープも同様で,液晶テレビのブランド「AQUOS」を中心とした家電と携帯電話の連携を検討中だ。シャープの長谷川常務は「家電との連携ではBluetoothがキーワードになる」という。Bluetoothを使って,家電を制御したりコンテンツを転送したりするといった用途が考えられそうだ。

NEC 山崎 耕司 執行役員 モバイルターミナル事業本部長「ウィジェット活用で端末をパーソナライズする」
NEC 山崎 耕司 執行役員 モバイルターミナル事業本部長「ウィジェット活用で端末をパーソナライズする」
写真:中島 正之

 システム構築事業の経験を生かすのがNECや富士通だ。NECは,クライアント・サーバー型のアプリケーション「ウィジェット」を携帯電話上で動作させることを検討している。ウィジェットはサードパーティを含めて多数用意し,ユーザーが選べるようにする。「サーバーの運営では,NECビッグローブとの協力を検討している」(NECの山崎本部長)としており,NECビッグローブが用意したサーバー・プラットフォーム上で,外部の様々なアプリケーション・プロバイダがサービスを提供するイメージを描く。山崎主幹は,これを「iモードの次のステップ」と呼ぶ。このサービスを,事業者を通じて提供するか,NEC自身が提供するかは「検討事項」(山崎本部長)とする。

 NTTドコモから3月に発売されたスマートフォン「F1100」は,富士通が自社内のソリューション担当の事業部と意見交換しながら開発を進めたものだという。「中長期で見ると,携帯電話が企業ソリューションに使われるのは必然。ユーザーとの接点になる携帯電話は重要度を増していく」(富士通の佐相事業本部長)。

 各社とも,端末だけを売るのではなく,端末を一構成要素として自社の製品やサービスを売る。それを端末の差異化につなげるとともに,端末の周辺市場を広げてグループ全体として収益を上げようとしている。

 こうした将来像を描くからこそ,国内メーカーは世界市場で苦戦しながらも携帯電話事業の存続にこだわるという面もある。「これからのテレビやAV機器の進化を考えると,携帯電話との連携は欠かせない。端末事業から撤退するのは,コンシューマ家電の競争上不利になる」(日立製作所の岡田本部長)というのだ。

事業者との依存関係を断ち切る決断も

 端末を拡販するための戦略は,少量多品種路線だけではない。今までの端末とは別の軸で,ユーザーに端末の価値を訴求する方法もある。良い例が米アップルのiPhoneだ。iPhoneは,今までないユーザー・インタフェースや楽曲・動画管理ソフト「iTunes」との連携で,新たな市場を切り開いた。

 今までと違う価値を訴求する端末を作るには,事業者に向けて端末を開発するという従来の体制を見直す必要が出てくる。事業者が求める端末は,新しい通信サービスをユーザーに使ってもらうための機能に主眼が置かれる。おのずと,端末に求められる仕様は各メーカーとも似てしまう。

 そうした価値観から脱却するため,端末メーカーは事業者頼みの考えを改め,例えば直接ユーザーに携帯電話端末を売るといった体制を検討すべきだろう(図2)。端末メーカーが直接エンドユーザーと正対することで,これまで以上に独自性を追求した端末作りが可能になる。この中には,一般の消費者向けだけでなく,法人用途,業務用途の端末も入ってくる。MVNO(仮想移動体通信事業者)経由で,現在とは全く違うサービスを訴求する端末も考えられる。

図2●メーカー主導の端末を開発してマーケティング力と企画力を磨く
端末と回線を分離して取り扱う販売方法が今後増える可能性がある。端末メーカーはマーケティングの主導権を持つと同時に,端末に関する全責任を負う。
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 実は,事業者も現状のサービスや端末のあり方に限界を感じている。「オーソドックスなものだけでなく,メーカーの独自性を生かした端末も登場してほしい。その端末の仕様は,事業者が決めるものではない」(ソフトバンクモバイルの吉田雅信常務執行役プロダクト・サービス本部長)と,端末メーカーによる独自開発を歓迎する声もある。

 こうした経験は,端末メーカーの海外進出でも生きてくるはずだ。海外では,メーカー自身が携帯電話の利用方法をユーザーに提案していかなければならない。例えば欧州では「日本の事業者が担っているユーザー開拓や啓蒙の活動は,ノキアが果たしている」(ジェミナイ・モバイル・テクノロジーズの太田洋代表取締役社長)という。事業者の傘の下にいるままでは,海外市場に進出するための体質は鍛えられないのである。

出典:日経コミュニケーション 2008年5月1日号 pp.34-35
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。