紹介されているデモの内容は?

 実際には動きませんが,BrowserPlusのサイトには3つのサンプルがDemoとして紹介されています。このサンプル群はBrowserPlusの具体的なサンプルとしてコードも解説も細かく紹介されているだけに,ベータ版になったときにはほぼ確実に実装されてくるでしょう。全体的にまだあいまいな情報しかない中で,BrowserPlusで一体何ができるのか,予習の意味合いでサンプルを2つほど眺めておくことにします。

Photo Uploader
 写真画像共有コミュニティ・サイト,「Flickr」に画像をアップロードするアプリケーションです。次の4つのBrowserPlusサービスが使用されています。

  • DragAndDrop
  • FileBrowse
  • FlickrUploadr
  • ImageAlter

 このアプリケーションではエクスプローラやデスクトップから,任意の画像ファイルをブラウザにドラッグ&ドロップすることで,Flickrへのアップロード準備ができます。ドロップされた画像はアップロード待ち状態になります。

 読み込まれた画像に対しては,アプリケーションでサイズを変更したり,モノトーンやセピア調,油絵調への変換,回転,トリミングなどが行えます。レタッチやサイズ調整が終わったら,タイトルやタグを付け,公開範囲を指定してアップロードボタンで直接Flickrにアップロードができます。本来ならばFlickrのサイトで操作しなくてはならないことを,すべてBrowserPlusで作ったページで完結させられます(図4)。


図4●Photo Uploaderの動作デモ画面。公式ページより転載

 使用しているサービスを見てみます。DragAndDropはデスクトップやエクスプローラなどからブラウザ内で実行しているアプリケーションに対してファイルのドラッグ&ドロップを可能とするものです。

 DragAndDropサービスは,ブラウザ内で実行されているアプリケーションに対して,直接ファイルを与えます。通常でもJPEGなどの画像ファイルをブラウザにドロップすることはできますが,この場合は画像が表示されるだけです。ブラウザが画像ビューワとして機能しているということと,ブラウザ内に表示されているページに対してファイルを与えられるということは,かなり意味合いが違います。

 Filebrowseは通常のファイル選択ダイアログを拡張するものです。複数ファイルの選択が可能で,Filebrowseサービスで取得したファイルハンドルはBrowserPlusの他のサービスに引き渡して利用できます。

 ImageAlterサービスはオープンソースの画像加工ライブラリ「ImageMagick」の機能をBrowserPlusから呼び出して使えるようにしたサービスです。フォトレタッチとしては必要最低限の機能が実装されることになりそうです。

 FlickrUploadrサービスは名前の通りFlickrに対して画像をアップロードすることに特化したサービスです。日本では動画系コミュニティが盛んで,写真画像コミュニティはそれほど話題になりませんが,BrowserPlusに限らず,オープンソースのSNSやCMS,ブログなどのプラグインとしてはFlickrとの連携モノはポピュラーです。Flickrはもともと独立した企業でしたが,2005年にYahoo!に買収されています。ですからこのサンプルはグループ企業との連携をBrowserPlusの目玉にしたとも考えられます。

IRC Client
 IRCはInternet Relay Chatの略称で,商用インターネット黎明期からあるシンプルなチャット・システムです。CGI型のチャットとは違い,単体サーバーではなくツリー状に配置されたサーバーで構成され,どのサーバーに接続しているユーザーともチャットができるのが特徴です。通常はブラウザを介さず専用のIRCクライアントを使ってチャットを楽しみます。

 IRC Clientサンプルは,通常ならば専用クライアント・ソフトで利用するはずのIRCを,ブラウザで楽しめるというサンプルになっています。チャットのように数秒ごとに誰かの発言が発信されるシステムでは,ブラウザをリロードしなくては最新発言が見えないということになります。最近では見なくなりましたが,Perlなどで作られた古いブラウザ型チャットでは,閲覧者が自分でリロードボタンを押すか,JavaScriptのタイマーを使って数秒間隔で自動リロードをかけるという方法が一般的でした。

 ページごとリロードするという考え方は読み込みが遅かったり,発言が行き違うなど,決してスマートとは言えないシステムです。その後いくつかのトリッキーな技術的解決策も登場しましたが,すでにチャットが脚光を浴びる時代ではないためか,最近ではそれほど研究や進化は進んでいません。

 IRC Clientのサンプルでは,ページごとリロードするという“間抜けな方法”を使わなくても発言部分に最新発言が出てきます(まだ動きませんから,あくまでも出てくる予定です)。text-to-speechによる音声での通知などもできるようになると説明されています(図5)。


図5●IRC Clientの動作デモ画面。公式ページより転載

 もっとも,専用ソフトがいくらでもあるIRCで,あえてブラウザでチャットを快適に行うということに,どこまで意味があるのかはわかりません。ページをリロードすることなく,サーバーから情報を取ってきて画面がスムーズに更新されていくのであれば,株価のリアルタイム配信であったり,なにかの投票の開票結果速報などに転用が利くかもしれません。このサンプルで使用されているサービスについてはサイトの中に説明がありません。実際に動くデモを待ちましょう。

BrowserPlusとGoogle Gears

 BrowserPlusに対しては,国内外を問わず各メディアがGoogleのGoogle Gears(関連記事)との比較記事を書いています。ただ私としては,この比較は無意味で,あたかも無理矢理ワープロ・ソフトとゲーム・ソフトを比較しているように思えます。

 BrowserPlusはブラウザの機能を拡張することで,“本来ブラウザ単体では実装できないことを可能にする”ことを主眼に設計されています。Google Gearsは確かにブラウザ上でアプリケーションを動作させることを目的としているという点ではBrowserPlusと同じに見えます。しかし,ベースにあるのはローカルキャッシュとデータベース実装による“オフラインあるいはクライアント単体でのアプリケーション動作環境”です。

 Sneak Peek段階でのドキュメントを見る限り,BrowserPlusにはGoogle Gearsのようなローカルキャッシュやローカルデータベースといった概念はないようです。つまり「ネットワークが繋がっていたり繋がっていなかったり」という状況は考慮されていないわけです。むしろ“繋がっている”ことが前提であるシステムと言えます。

 Googleはすでに「Google Docs & Spreadsheets」というブラウザ内で動作するアプリケーションを持っています。Google GearsはDocsやSpreadsheetsをオフラインで動作させて,オンラインになったときにサーバーと同期するといった手段として使うといった連携がとれますが,Yahoo!にはこうしたブラウザベースのアプリケーションがありません。

 こうした点を考えると,GoogleはブラウザをOS的なアプリケーションのプラットフォームとしてとらえていると言えるでしょう。一方Yahoo!は,BrowserPlusで「ブラウザをもっと高機能に,便利に」と考えてはいても,ブラウザをプラットフォームとしたアプリケーション・ベンダーになろうという意図は見えません。

 ただ両者にはよく似た部分もあります。GearsもBrowserPlusも,利用するにはランタイム・モジュールをローカルにダウンロードしてインストールしなくてはならなりません。ランタイムはブラウザのプラグインとして動作します。

 ランタイムをインストールしていない環境で,GearsやBrowserPlus用に作られたページを閲覧すると,ランタイムをダウンロードしてインストールするように促されます(促すように開発者がプログラムするんですけどね)。これはFlashコンテンツが仕込まれたページで,Flashの再生ランタイムをインストールしないとコンテンツを見られないのと似ています。

 Gearsもそうでしたが,この“プラグイン(ランタイム)をインストールしないと使えない”という部分が,開発者はともかくとして,一般閲覧者に受け入れられるかどうかが普及のポイントになりそうです。すなわち,プラグインをわざわざインストールする必要がある仕組みを,商用サイトの開発を依頼された企業が採用できるかどうかということです。Google Gearsは発表から相応の時間が経過しましたが,国内大手企業のサイトでGoogle Gearsを使ってページを作っている例にはまだ出くわしたことがありません。

 BrowserPlusについては,まずは実際に動くサンプルが出てくるのを待たなくてはなりません。ベータ版で公開ということになるでしょうが,その時にどの程度のサービスが用意され,そのサービスがどれくらい有効であるのか。少なくてもFlickrやIRCを日常的に使用していない層に対してアピールできるものがないと成功は収めにくいかもしれません。とりあえず半年ほど待てば,何かの形で動くBrowserPlusが出てくるのではないかと思います。

 もっとも個人的には,今あるブラウザに無理矢理機能を詰め込むくらいなら,器であるブラウザごと作ってしまったほうが自由度は高いと思うんですよね。そのアプリケーションをブラウザと呼んでしまったら,IEやFirefoxと正面から戦わなくてはならないけれど,「独自アプリだよ。実はブラウザなんだけどね」っていう形で開発・配布すれば競合をさらっと回避できるような気がします。

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