百五銀行は2007年5月6日、勘定系を含む基幹系システムを全面刷新した。銀行業務のすべてをWindows上で実現したのは世界で初めて。メインフレームを上回る性能と信頼性を確保するために、2年近くを性能検証に充当した。米マイクロソフトの製品計画が遅れるなどの危機もあったが、予定通りの稼働にこぎ着けた。

 ゴールデンウイーク最後となる2007年5月6日、日曜朝の8時過ぎ。百五銀行(三重県津市)本店近くの支店に、前田肇 頭取の姿があった。

 前田頭取は、ATM(現金自動預け払い機)に近付くと、キャッシュ・カードを差し込み、暗証番号を打ち込む。ほどなくATMの現金取り出し口が開き、指定した額のお札が出てきた。

 「よかった、無事に引き出せる」。前日には最終テストを実施して問題なく稼働することを確認。取締役会で自らがサービスインを承認した。とはいえ、実際に動いたATMを前に、前田頭取はほっと胸をなで下ろした。

図1●勘定系を含む“フルバンキング”をWindowsで構築した百五銀行のシステム構成
図1●勘定系を含む“フルバンキング”をWindowsで構築した百五銀行のシステム構成
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全業務をWindows上で実現

 この日は百五銀行が4年余りの年月と100億円超(本誌推定)の費用を投じて開発した、新基幹系システムの稼働日である。前日の5月5日には、120カ所の支店にあるすべてのATMを使ってリハーサルを完了。6日から休日稼働を、ゴールデンウイーク明けの7日からは平日稼働を開始した。

 新基幹系システムは、OSにWindows Server 2003、サーバー機にES7000(日本ユニシス製)をはじめとしたIAサーバーを採用。預金や融資といった勘定系はもとより、外国為替などの国際系、融資審査、データ・ウエアハウス(DWH)、外部システムとのインタフェースなど、地銀の基幹業務のすべてをカバーする。それまで日本ユニシス製メインフレーム上で稼働していたシステムを全面刷新した。

 百五銀行側で開発作業のとりまとめ役を務めた上田豪 取締役事務統括部長システム統括部長は、「情報系システムとの連携の容易さや、開発要員の確保のしやすさといった開発生産性などの評価に、ITベンダーの将来動向を考え合わせれば、Windowsは最有力の選択肢だろう」と語る。

 マイクロソフトによれば、Windowsを使って銀行のフルバンキング・システムを構築した事例は、百五銀行が世界で初めて。それだけに、今回のプロジェクトには米マイクロソフトも技術支援のために参加。プロジェクトは、百五銀行と日本ユニシスとマイクロソフトによる3社共同開発となった。

 今でこそ、銀行のシステムにWindowsを採用すること自体は、そう珍しくはない。だが、いずれの採用事例も銀行業務の一部を対象にしたものだ。 2006年1月にWindowsを使った勘定系システムを稼働させたセブン銀行にしても、同行は店舗を持たないため業務範囲は百五銀より狭い。

 稼働実績をとりわけ重視する銀行業界にあって、百五銀の決断はまさに異例のもの。「銀行の勘定系システムを Windowsで刷新する」と発表した百五銀行には、多少の期待を含みながらも、冷ややかな目が銀行業界とIT業界から向けられた。「銀行の勘定系にWindowsを採用して大丈夫なんですか?」。百五銀の前田頭取は、これまでに何度、こんな質問を受けたか知れない。

 予定通りに稼働した新基幹系システムに対し前田頭取は、「さまざまなコスト削減こそ、地銀の生きる道。新システムによって、運用管理コストは3割ほど削減できる。新基幹系システムによって当行は、スピーディな商品開発を実現するためのIT基盤を整えることができた」と、大きな期待を寄せる。

検証結果次第では見直しも覚悟

 百五銀行の基幹システム刷新プロジェクトが動き出したのは、02年の秋ごろ。日本ユニシスがWindowsベースの提案を持ち掛けた。当時、ネット証券のカブドットコム証券の取引システムや三井住友銀行の対外接続環境「BANCS接続システム」などが、Windows上で稼働し始めていた。

 その提案を受け百五銀行は02年末、Windows ServerとIAサーバーを新基幹系システムの基盤に選ぶことを、ひとまず了承した。ただし、「処理規模や信頼性の面で、メインフレームで稼働する旧システムを上回ることを絶対条件」(上田取締役)にした(図2)。

図2●百五銀行が新基幹系システムに求めた要件
図2●百五銀行が新基幹系システムに求めた要件
メインフレームを超える性能と信頼性をWindowsで実現することを求めた
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 本当にWindowsでメインフレームを超える性能と品質を出せるのか――。その確証を得るために百五銀行は、ES 7000の実機による性能と機能の検証を日本ユニシスに要請した。メインフレーム時代から長年の付き合いがあり、いくら信頼しているからとはいえ、最新テクノロジを選択する際のリスクは小さくない。前田頭取は当時の心境を、「実機検証の結果次第では、刷新計画を一から見直すつもりでいた」と明かす。

 2003年1月、日本ユニシスは東京・江東区にある自社データセンターに、百五銀行のための実機検証環境として8台のES7000をそろえた。この時点で百五銀と日本ユニシスはまだ、正式契約を結んでいない。そのため、04年からは、この実機検証作業を両社内で、「ステージ0(ゼロ)」と呼ぶようになった。

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