中堅・中小企業のITコンサルティングをやっていると,同じような問題に突き当たることが多い。筆者がよく遭遇する問題を三つ挙げるなら,(1)社長だけが突出して問題意識を持っている,(2)何事にもルーズな社風が根付いている,(3)ITの管理者が小さな王国を作っている,である。どれも簡単には解決できない難問であり,この三つに共通する弊害はエンドユーザーが動いてくれないことである。

 (1)の場合は社長と社員との間に意識の温度差がある。「また社長の道楽が始まった。今度はITコンサルタントを連れてきて,経営の情報化をやるんだってよ」といった感じで自発的に動いてくれない。

 (2)も深刻である。会議に人が集まらない。5分10分の遅れは全く気にせず,不参加でも事前に何の連絡もない。「Aさんは?」「外出しているみたいです。そういえば,会議に出られないと伝言がありました」といった体たらくである。会議で決めた翌週までの宿題も「ごめんなさい。別件で忙しくて,やってません」で終わり。このようにルーズでは,どんなに良いアクション・プランを立案しても実行してもらえないから効果が出ない。

 そして,意外とやっかいなのが(3)である。小さな王国とは,1人のIT管理者がその企業のITに関する事柄すべてを掌握して,アンタッチャブルな存在となっている状態の例えである。

 中堅の建設会社A社の社長から「ウチのITの現状を客観的に見てほしい」との依頼があった。筆者が会ったのが電算室のB室長である。社長の親戚筋にあたり,若年ながら室長を任されていた。電算室のメンバーは6人。開発は地元のベンダーに委託していた。

 B室長は,社長が自分に相談なくITコンサルタントを雇ったことに不満を持っていた。初対面の筆者にいろいろと難くせをつけてきたが,筆者もそれには慣れているのでうまくかわし,B室長は渋々ながらも調査を承諾した。

 調査を進めるといくつか問題点が浮かび上がってきたが,そのほとんどはB室長に原因があることが分かった。B室長は無能なのではない。むしろ非常に有能であり,客観的に見ても,大手ベンダーの優秀なエンジニアにも見劣りしない。しかし,その有能さが逆に災いしていた。

 B室長は部下の仕事を信用しておらず,どんなにささいなことでも自分が決裁しないと気が済まない性格であった。部下もそれに慣れてしまい,何でもB室長にお伺いを立てる。すると「こんなくだらないことまで聞いてきやがって」とますます部下をバカにする。そして大量の仕事をさばくために,B室長は深夜まで仕事をし続けるのであった。午前2時,3時の発信メールが何度も来て,筆者も驚いた。

 エンドユーザーに対しても「システムすらまともに使うことができない時代遅れ」といった態度で接する。そして反発を受ける。「社長の親戚だからって若造が調子に乗りやがって」というわけだ。要件定義もエンドユーザーを巻き込まず,電算室で作成してそれをエンドユーザーに見せて承認をもらうというやり方であった。エンドユーザーは電算室とかかわりたくないから生返事でOKを出す。稼働してから「こんなシステムでは仕事にならない」と文句を言う。

 ベンダーに対しても見下した態度を取っていた。B室長は設計でもプログラミングでも自分の方が達者であり,下手なベンダーのエンジニアに教えてやっているんだとの意識があった。ベンダーも前向きに取り組む気力がわいてこない。言われたことだけそつなく受ける御用聞きスタイルに徹していた。

 ではB室長をクビにすればよいかといえばそう簡単ではない。B室長がいなくなればA社のITは機能停止してしまう。無能や怠け者でなく有能で勤勉だからこそ問題が根深くなってしまう。こんなタイプをしばしば見かける。コンサルタントも楽ではない。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長,NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て,ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画,96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング, RFP作成支援などを手掛ける。著書に「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)
出典:日経SYSTEMS 2007年11月号 15ページより
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