2008年3月,香港でアジア初のフェムトセルに関する国際会議が開催された。ソフトバンクが初めて事業展開計画を公表するなど,各国・各社で事業化準備が進んでいることをうかがわせた。日本では総務省が今秋にもフェムトセルに関する規制を緩和する予定だが,事業化に向けて解決しなければならない課題も見えてきた。

 アジア初のフェムトセルの国際会議「Femtocell Solutions ASIA 2008」が,2008年3月11~12日の2日間,香港で開催された。このカンファレンスには,アジア・欧米から14カ国38社の通信事業者,メーカーなどが出席。日本からはNTTドコモ,ソフトバンクモバイル,NEC,野村総合研究所や,仏アルカテル・ルーセント,米エアバーナ,米ソナス・ネットワークスの日本法人などが参加した。

フェムトセルのメリットは三つ

 フェムトセルとは,ユーザー宅内に設置可能な超小型の携帯電話基地局のこと。戸建住宅一軒やマンションの一部屋をカバーする目的で使う。家庭の商用ブロードバンド回線にフェムトセルを接続すれば,家庭内に“自分専用”の基地局を作れる。

 フェムトセルのメリットは次の3点。

 一つは,屋内で電波の届かない場所を簡単にカバーできること。二つめは,フェムトセルに接続する端末数が1~4台と少ないため,データ通信の実効速度を高められること。三つめは,フェムトセルを家庭内のLANに直結することで,携帯電話をホーム・ネットワークに接続できることだ。

 日本や韓国,香港,シンガポールといったアジアの国・地域では欧米とは異なり,既存の屋外基地局によって屋内にも電波が届くようなエリア設計が進んでいる。そのためフェムトセルの導入にあたっては,単に屋内をエリア化するだけではなく,「データ通信の高速性や,携帯電話のホーム・ネットワークへの接続を活用した付加価値サービスが重要になる」(香港オーバム・コンサルティングのCW・チェン コンサルティング・ディレクター)という。こうした「付加価値が必要」との意見が会議では多く出されていた。

ソフトバンクは「Yahoo!BB」利用

 今回の会議には,ソフトバンクモバイルの宮川潤一・取締役専務執行役員兼CTOとNTTドコモの尾上誠蔵・無線アクセス開発部長が登壇。両社が現状の取り組みを語った(写真1)。

写真1●アジア初のフェムトセルの国際会議「Femtocell Solutions ASIA 2008」に出席
写真1●アジア初のフェムトセルの国際会議「Femtocell Solutions ASIA 2008」に出席
ソフトバンクモバイルの宮川潤一・取締役専務執行役員兼CTO(左)とNTTドコモの尾上誠蔵・無線アクセス開発部長(右)。

 ソフトバンクの宮川CTOは,コンシューマ向けに展開するフェムトセル事業について,今後のスケジュールを初めて公開した。2008年4月1日からソフトバンク社員によるトライアルを,5月からは一般ユーザーも含めた商用トライアルを実施するとした。実際のサービスについては,「(総務省の規制緩和が進めば)10月には商用サービスを開始したい」(宮川CTO)という。

 同社がフェムトセルの導入を急ぐ背景には,携帯電話網のデータ・トラフィックの急増がある。フェムトセルを利用することで,同社の公式コンテンツ以外のデータ・トラフィックを直接インターネットに流して負荷を分散する。

 コンテンツによってトラフィックを分けるには,フェムトセル側でパケットを制御する必要がある。そのため,フェムトセルに交換機相当の機能を持たせる方向で開発を進めている。既存網との親和性を重視して,フェムトセルのベンダーにはNECを選定した。

 フェムトセルの接続回線には,まずはグループ会社のブロードバンド・サービス「Yahoo!BB」を利用する。その後,QoS(quality of service)制御などに対応できれば,他社回線の利用も検討するという。

NTTドコモは屋内カバー狙いで導入

 一方のNTTドコモは,2007年秋からフェムトセルを一部のオフィス・ビルなどに導入済みだ。ソフトバンクよりも先行してフェムトセルを導入しているが,その目的は異なる。「新築ビルの高層部や地下などで,屋内をカバーするために導入している」(尾上部長)。既存の屋内用基地局の小型版という位置付けだ。

 日本の現行制度ではフェムトセルの接続回線として携帯電話事業者(この場合はNTTドコモ)が契約した回線を使わなければならない。ユーザーが契約しているブロードバンド回線をフェムトセルの接続用には利用できず,個人向けサービスは展開できていない。

 総務省は,2008年秋にユーザー宅に引かれたブロードバンド回線とフェムトセルの接続を解禁する予定。この規制緩和以降は,NTTドコモもユーザーの回線を利用したサービスを検討するという。

 尾上部長は,今後のフェムトセルの高速化計画も公開した。2008年中に既存のフェムトセルをソフトウエアのアップデートでHSDPA(high speed downlink packet access)に対応させ,下り最大3.6Mビット/秒に高速化する。2009年には,ハードウエアを見直してHSUPA(high speed uplink packet access)に対応。下り最大14Mビット/秒,上り最大5.7Mビット/秒の伝送速度を実現させるとした。

屋外基地局との技術課題も残る

 ただし会議では,依然として越えなければならない技術課題があることも浮き彫りになった(図1)。

図1●Femtocell Solutions ASIA 2008で指摘されたフェムトセルの技術課題
図1●Femtocell Solutions ASIA 2008で指摘されたフェムトセルの技術課題
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 一つは,屋外の基地局とフェムトセル間での電波干渉だ。フェムトセルに電波の出力やチャネルを自動調整する機能を付加することで,ある程度問題を解決できる見通しは立った。しかし,電波の出力を調整するために「屋外基地局のごく近くでは,ほとんど利用できないくらいフェムトセルのカバー範囲が狭くなる」(NTTドコモの尾上部長)という問題が浮上した。今後,確率的にどの程度の頻度でこの問題が発生するかを検証する必要がありそうだ。確率によって,メーカーや通信事業者の取り得る対策は変わる。

 二つめは,屋外基地局からフェムトセルへのハンドオーバーができないこと。「技術的に解決が難しく,標準規格を逸脱する形でないと対応しづらい」(米モトローラ CPEプロダクト・ライン・マネジメントのシェリフ・ポポーラ シニア・マネージャー)との意見もあった。なお,フェムトセルから屋外基地局へのハンドオーバーは可能だ。

 三つめは,「ユーザーがブロードバンド回線に接続するだけで使えるようにしなければならないが,標準的な方法は確立できていない」(米ネクストポイントのアーロン・シッパー プロダクト・マーケティング・ディレクター)ことだ。多くのユーザーに広くフェムトセルを使ってもらうためにも,簡単な手順で接続できる標準仕様の策定がメーカーや通信事業者の急務になりそうだ。

出典:日経コミュニケーション 2008年4月1日号 40ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。