「ひょっとして作家や記者など物書きのためのモバイル・マシンがついに登場するのではないか」。インテルの超小型省電力プロセサAtomを巡る報道を読み,勝手に考えた。コンピュータ担当記者なのだから職務上,「Atomは携帯電話や自動車の市場に食い込めるか」という問題を追求すべきだが,持ち歩ける“物書き専用機”の登場も職務上,意味がある。

 Atomについてはインテルの戦略商品ということから関心があった。少し前に開かれた記者会見の後,インテル日本法人の吉田和正共同社長は「今年創立40周年を迎えるインテルが,40年かけてついに出すプロセサです」と言ったくらいであり,先頃上海で開催された開発者向け会議Intel Developer Forum 2008 ShanghaiにおいてもAtomは発表の目玉であった。ひまわりの種の大きさのチップでパソコンと同じ機能の携帯マシンが作れるわけだから,素直に考えると大した技術である。

 とはいえ筆者は素直ではないから「パソコンから出発したインテルはパソコン・サーバーまでは戦線を拡大できたが,それ以降は新市場を開拓できているとは言い難い。あらゆる領域にインテル・アーキテクチャを広げたい気持ちは分かるものの,パソコンとは勝手が違う携帯電話や家電の市場に今から参入できるものだろうか」などと考えてしまう。

 吉田社長にそのあたりについて聞くと,次のような答えが返ってきた。「パソコンの領域を強引に広げて何から何までインテルのものにしようというわけではない。新しい市場においてはチャレンジャーとして一から取り組んでいく。インテルが参入することで,ユーザーにとっては選択肢が広がると思う。パソコンや携帯電話,地上波デジタル放送といった領域における利用形態はこれから大きく変わるはず。何が本命かを予測するのは難しいから,インテル1社でどうこう言うより,様々な企業と組んで色々な提案を出し,市場を活性化させていきたい」。

 魅力ある新しい利用形態,新しい応用分野を切り開くことが先決と吉田社長は強調し,「ユーザーはやりたいことができれば中に入っているプロセサのことなど気にしない」とも述べた。ただし,インテルとして「ブランドは強調していきたい」ともいう。ここがインテルのユニークな点である。部品メーカーでありながら,コンシューマに向けたブランド・マーケティングに取り組んでいるのは,コンピュータ以外のあらゆる産業を見渡しても同社くらいだろう。

ケータイ人はパソコンに戻れるか

 さて,インテル・アーキテクチャのAtomをパソコン以外の領域で使う利点は何なのか。パソコン以外の市場に出るわけだから,Windows上のアプリケーション資産を継承できてもさほどの意味はないように思える。既存のパソコン・サーバーやパソコンとAtom搭載マシンの連携がしやすい,Linux上で作られている組み込みソフト資産を利用できる,といったことかもしれないが,先行する他社製プロセサを押しのける理由になるかというと弱い気がする。結局は体力に物を言わせ,競合メーカーのプロセサより安く販売することになるのではないか。

 あれこれ考えていると,オフィスで隣の席に座っている中堅記者が「パソコンよりはるかに携帯性に優れるマシン上でパソコンと同様のフルブラウザを使いたい,というニーズがかなりあるようです」と説明してくれた。主要なブラウザはインテル製プロセサ上で動いているから,Atomを使った新しい小型マシンでも同じブラウザを動かせる。利用者はパソコンとまったく同じ使い勝手でインターネットにアクセスできる。上海の開発者会議においても,インテル幹部は「現行の携帯電話やPDA(携帯情報端末)のインターネット・アクセスは十分ではない」といった主旨の発言をしていた。

 パソコンに触れる前に携帯電話の利用を始め,携帯電話からアクセスできる世界を熟知している“デジタルネイティブ”と称される若い世代にとって,もはや旧世代と言えるパソコンの世界にわざわざ移行する意味がどれほどあるのか,とまた性格の悪いことを考えたが,携帯電話から見えるWebの世界がどれほどのものなのか筆者は知らないので,インテルの主張が正しいかどうかを判断できない。

 「パソコンと同様のフルブラウザが携帯端末でも使える」と隣席の記者に言われて筆者は突然,4年前の2004年2月末から3月にかけて書き,Webで公開した「物書き専用機」を巡る一連の文章を思い出した。パソコンと同じ使い勝手で文章が書ける超軽量マシンが欲しい,と書いたからである。これらの文章を再掲しつつ,Atomと物書き専用機の関係を考えてみたい。

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