企業が不特定多数の消費者に送信する広告宣伝用メールを規制するための法律が,「迷惑メール防止2法」である。CRMシステムやBtoCのECサイトなどで,電子メールを送信する機能を開発・運用するときには,法律に違反しないよう十分注意して欲しい。

 2001年に,有限会社のグローバルネットワークが出会い系サイトを紹介する電子メールをNTTドコモの携帯電話に大量に送信した。グローバルネットワークは,多くのiモード契約者が携帯電話の「090」で始まる11けたの電話番号に「@docomo.ne.jp」を追加してメールアドレスとしている点に着目して,「090」に続く8けたにランダムな数字を当てはめたメールアドレスに,電子メールを大量かつ継続的に送信していた。

 例えば,2001年6月8日午前10時から午前11時までの間に約97万件,同日午前11時から午前0時までの間に約37万件を送信した。これはNTTドコモの電気通信設備の処理能力を超える送信量だったため,同設備は少なくとも2回の機能障害を起こし,回復するまでの間,iモード・サービスを使用することが事実上不可能となった。

 そこでNTTドコモは2001年7月に,グローバルネットワークによる電子メールの送信行為を禁止する仮処分命令の申し立てを横浜地方裁判所に行った。横浜地裁は,「グローバルネットワークの送信行為は正当な営業活動とはいえず,電気通信設備の機能低下を引き起こすことで,電気通信設備に対するNTTドコモの所有権を侵害している」と認定。電子メールの送信行為を1年間禁止する命令を発した。(横浜地方裁判所2001年10月29日決定,判例時報1765号18頁)

 電子メールの普及にともない,企業が広告宣伝用の電子メールを消費者に送信することが一般的になった。今回は,広告宣伝用電子メールにかかわる法律について解説しよう。CRM(Customer Relationship Management)システムやBtoC(企業対個人)のEC(電子商取引)サイト構築などで,電子メールによるマーケティング機能を開発するときは,法律に違反しないよう目を配って欲しい。

仮処分命令で送信を禁止

 ランダムに送信先のアドレスを設定して,大量の広告宣伝用メール(迷惑メールやスパム・メール)を送りつける行為は,メールを受け取った消費者に,多大な迷惑を及ぼす。不要メールを削除する時間と手間がかかるし,通信料の負担につながることもあるからだ。さらに,電気通信事業者のサーバーにも過大な負荷をかけ,その業務を妨害することになる。これは,決して許されない行為である。

 2002年4月に迷惑メール防止2法(特定電子メール法と特定商取引法の改正)が成立するまでは,迷惑メールを規制する法律がなかったため,裁判所による仮処分命令でこうした行為を禁止するしかなかった。仮処分命令とは,正規の訴訟手続きを経て判決を待つのでは時間がかかりすぎ,なおかつ被害が著しく増大する恐れがある場合に,被害者の権利を保全するために裁判所が加害者に発する命令のことである。

 冒頭で紹介した事件は,大量の広告宣伝用メールを携帯電話に送信する行為を裁判所が仮処分命令手続きによって禁止した初のケースである。この事件の前にも,わいせつビデオ販売の広告宣伝用電子メールをニフティ会員に送りつけた企業に対して送信禁止の仮処分命令を出した判例があるが(浦和地方裁判所1999年3月9日決定,判例タイムズ1023号272頁),これはコンテンツの違法性のために仮処分命令が下されたケースであり,冒頭の事件とは性格が異なる。

広告宣伝メールに表示義務

図1●特定電子メール法による特定電子メールの定義(第2条2項)
図1●特定電子メール法による特定電子メールの定義(第2条2項)
 
図2●特定電子メール法によって表示が義務付けられる主な事項
図2●特定電子メール法によって表示が義務付けられる主な事項

 迷惑メールの被害者が,裁判所にいちいち仮処分命令を申し立てて救済を受けていたのでは,裁判にかかる費用や労力の点で現実的ではない。そこで,政府は2002年4月に「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)」を制定するとともに,「特定商取引法」を改正した。

 特定電子メール法は,企業が広告宣伝用の電子メール(法律では「特定電子メール」と呼ぶ,図1)を消費者に送信する際に,「送信者の氏名・名称」,「送信者の電子メールアドレス」,「受信拒否を通知するためのアドレス」などの表示義務を課した(図2,第3条)。また,受信者が電子メールの受け取りを希望しないことを送信者に通知したときは,それ以降,電子メールを送信してはならない,と定めている(第4条)。

 プログラムで生成した架空のメールアドレスに特定電子メールを送信することも禁止しており(第5条),多数のメールアドレスに送信する行為によって電気通信事業者の電気通信サービスに著しい支障をきたす恐れがあるときは,通信事業者は送信者に対しサービスの提供を拒否できる(第11条)。

 電子メールの送信者がこの法律に違反したときは,総務大臣が法律を遵守するよう命じることができ(第7条),送信者が命令に従わないときは1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる(第32条)。

 一方の特定商取引法は,もともと訪問販売や通信販売,マルチ商法,内職商法などを規制する法律だ。2002年4月の改正で,広告宣伝メールに対する規制も盛り込んだ。(1)消費者が広告宣伝メールの受け取りを希望しない旨の連絡を事業者に行った場合には,その消費者に対する広告宣伝メールの再送信を禁止する,(2)そのために広告宣伝メールの受け取りを希望しない旨の連絡を行うための方法を表示しなければならない――など,特定電子メール法とほぼ同様の規制を定めている。



辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事
出典:日経ITプロフェッショナル 2003年10月号 146ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。