オイルヒーター(写真右)は、機器内部に充てんした難燃性油を電熱器で熱し、フィンから熱を放射して部屋を暖める。イタリア・デロンギ社の製品が知られている
オイルヒーター(写真右)は、機器内部に充てんした難燃性油を電熱器で熱し、フィンから熱を放射して部屋を暖める。イタリア・デロンギ社の製品が知られている

 調査員Bが、実家からオイルヒーターを譲り受けた。「そろそろ暖房が欠かせない時期。使うべきか迷っている」と打ち明ける。

 これを聞いた国際連合大学の安井至副学長は、「オイルヒーターは憧れの暖房器具として人気があるようだ。手ごろな価格の製品が量販店で売られるようになったので、購入を検討している人も多かろう」と言い、議論の題材に選んだ。

 オイルヒーターは欧州で好まれる暖房器具で、日本でも愛用者が増えている。放射熱で部屋を暖める方式で、日だまりにいるような柔らかな暖かさが得られる。ガスや灯油を燃さないのでこまめな換気が不要で、運転音も静か。寒さに弱い高齢者宅などで、就寝中の暖房に使われることも多い。ヒーターの表面に触れてもやけどしにくく、乳幼児がいる家庭では安全な暖房として選ばれている。

最大のネックは消費電力

 調査員もこうした特徴には納得するが、環境面での特徴となると反応は鈍い。理由は、ひとえに消費電力の多さだ。例えば木造4畳・コンクリート造10畳までに対応する機種の場合、最大消費電力は1500W。ワンランク小さな機種でも1200Wだ。

 調査員Aは、「1200Wといえば、一般的なヘアドライヤーと同じだ。省エネ運転もできるが、“強”で運転すれば、ヘアドライヤーのスイッチを付けっぱなしにしておくようなもの」と驚く。調査員Cは買った経験があると明かした上で、「音がしない分、電力を消費しているという実感が無い。使ってみて初めて、電気代の跳ね上がり方に目を丸くすることになる」と指摘した。

 安井副学長は、「電気ストーブと同様、真冬に外から帰って、すぐに部屋全体の温度を上げるには不向き。足元など局所的な暖房に短時間使うならまだしも、冬場の主力暖房器具としては効率が悪過ぎる」と、暖房効果そのものについても否定的だ。

 しかし一方で、「オイルヒーターは環境に良い」というイメージもある。調査員Cは、「“室内環境”という狭い範囲で考えれば、空気を汚さない点で“環境配慮”という言い方はできる。またあるメーカーは、故障時の取り替え用部品を長期にわたって保管するなど長期使用を促す体制を整えている」と、評価する。

 だが、「地球環境にまで視野を広げると、CO2削減に取り組む時代に、電力消費量が多いオイルヒーターを選ぶのは賢い消費行動とは思えない」と、くぎを刺す。

 ここで安井副学長が、「暖房器具が同じ熱エネルギーを得るため、CO2をどの程度排出するか、目安を示しておこう」と言い、冷房能力2.8kW級のヒートポンプ式エアコンを基準に、主な暖房器具別の値を算出した(図1)。同じ電力を使うエアコンとオイルヒーターで4倍の開きがあるのは、エアコン暖房時のCOP値を4に仮定したからだ。

図1●ひと冬のCO2排出量
図1●ひと冬のCO2排出量
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 安井副学長は、「2.8kW級のエアコンで暖房するのに必要な消費電力は単純計算で4分の1で済むが、オイルヒーターは2.8kW分の消費電力がそのまま必要だ。住宅の構造や器具の配置、暖かさの感じ方の違いなど、一概に決め付けにくい部分はあるが、オイルヒーターが効率の悪い器具であることは理解してほしい」と言い、「安全性や快適性が特に重要視されるような用途を除けば、暖房器具を選ぶ際、オイルヒーターの優先順位は相当低い」と念を押した。

                 
  安井至・主席調査員   安井至・主席調査員
国連大学副学長。LCAの視点で環境問題の常識・非常識を解き明かし、広く情報発信する
  調査員A   調査員A
様々な製品分野の生産技術に詳しく、LCA評価手法の向上にも熱心に取り組む
 
                 
  調査員B   調査員B
東大安井研究室のOG。LCAのインパクト分析が専門で、重金属や情報技術に精通する
  調査員C   調査員C
環境配慮型住宅の専門家。設計面の工夫から導入機器に至るまで全般的なアドバイスを行う
 
                 
構成/建野友保 イラスト/斉藤よしのぶ

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