●携帯電話に照準を合わせた組み込みソフトを独自開発
●“畑”の違う技術者が集結し携帯電話向け画像認識の壁を突破
●ビデオ画像の顔認識機能も実装へ

 「沖電気工業がさまざまな産業分野で培ってきた技術力を結集して、海外にも通用するオンリーワンのソフトを開発しよう」。井上清司 情報通信グループインキュベーション本部事業推進担当部長は顔認識ソフト「FSE」(Face Sensing Engine)の開発チームに対し、何度となくこう呼びかけてきた。

金子雅●エンタープライズビジネス第3本部エンタープライズ開発第3部長補佐兼システム開発第3課長
金子雅●エンタープライズビジネス第3本部エンタープライズ開発第3部長補佐兼システム開発第3課長

 このソフトが、「受託開発に頼るビジネス構造を脱却し、ライセンス販売など新たな事業領域を拡大する」という沖電気の経営戦略の、大きな礎になるとの思いを持っているからだ。

 FSEはカメラで撮影した顔のパターンを抽出し人物を特定する。指紋や虹彩と同様の生体認証技術である。最大の特徴は、携帯電話やデジタルカメラへの搭載を前提に、顔の撮影条件がまちまちになっても認識精度を確保できるようチューニングしていること。2003年には携帯電話に搭載されたが、一般にはなかなか認知されてこなかった。

 それが2007年に携帯電話向けコンテンツ「顔ちぇき!」(提供はジェイマジック)がヒットしたことや、ゲーム機のニンテンドーDS向けソフト「大人のDS顔トレーニング」に採用されたことで、次第に注目を集めるようになった。


潜水艦のソナー解析などを応用

 FSEの前身は、2003年にNTTドコモのFOMA携帯電話に実装されたソフト「Face Communicator」だ。話者の表情を内蔵カメラで読み取り、本人の代わりにアニメーションのキャラクターを相手の画面に表示させるFOMAのテレビ電話サービスだった。この時生み出した顔の認識プログラムが、FSEの中核技術になった。

 とはいえ当時から「顔の画像を認識する」というソフトはそれほど珍しくはなかった。沖電気ならではの独自ソフトを作り出さなければ、ライセンス販売の展開はとうてい無理。こう考えた井上担当部長が開発チームに集めたのは、デジタル画像処理の専門家ではなく、“異能”のメンバーだった。例えば金融機関向けに手書きの帳票を認識するためのOCR(光学式文字読み取り装置)を開発してきた技術者や、自動車の衝突防止システムなどITS分野の研究者である。なかには潜水艦のソナー信号の解析システムの開発者もいた。

 当初は「携帯電話の組み込みソフトに関しては全くの素人集団」(井上担当部長)に過ぎなかったが、この体制は、携帯電話特有の撮影条件の悪さを克服する上で機能した。

 携帯電話の場合、カメラ撮影の場は日中の屋外もあれば、薄暗い飲食店内もある。パソコンのように机の前で椅子に座って撮影するのではないので、顔の向きが微妙に変わることもある。こうした状況でも認識精度を確保するために、ソナー信号の波形から特徴点を抽出するノウハウなど、通常のデジタル画像処理技術にない技を投入したという。また、カメラで撮影したカラー写真を白黒画像として取り込むようにしたことでも認識精度を高めている。通常なら人物の肌色を認識することが精度向上の定石だが、撮影条件が変わりやすい携帯電話の場合、白黒のほうが顔のパターンを単純化できて認識しやすいからだ。

 認識精度を確保しながら処理速度を高めることも課題となった。そこで開発現場では「浮動小数点ではなく整数演算だけに絞る」などの対策を一つひとつ重ねながら完成度を高めていった。

 新市場への道筋もつけている。2008年内の出荷を予定している次期バージョンでは、ITS分野の技術者が培ってきた動画像中における画像認識機能を実装する。例えばビデオレコーダーに蓄積した膨大な動画データの中から、特定の人物が映っているシーンだけを抽出できるようになる。まずはデジタル家電分野や監視カメラのメーカーに、組み込みソフトとして販売していく方針だ()。将来的には監視カメラで蓄積した動画像の解析システムなど、ビジネス向けソリューションを視野に入れている

図●沖電気工業が開発した顔画像処理ソフト「Face Sensing Engine」(FSE)の適用例
図●沖電気工業が開発した顔画像処理ソフト「Face Sensing Engine」(FSE)の適用例
出典:日経ソリューションビジネス 2008年1月30日号 84ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。