デュアルチャンネルのドラフト版のIEEE802.11n(以下,Draft 11n)に対応した製品が手に入りやすくなってきた。無線でありながら,実効速度で100Mbpsを超えるので,ノートPCユーザーであれば11a/g無線LANや有線LANからの乗り換えを考えている人もいるだろう。そのとき,もしデュアルチャンネルのDraft 11nのパフォーマンスをフルに発揮したいのなら,パソコンのスペックも少し気をつけたい。無線LANは思いのほかパソコンに負荷をかけるからだ。

無線LANは結構CPUに負荷をかける

 意外に思う人もいるかもしれないが,無線LANは結構パソコンに負荷をかけている。したがって,ちょっと古い機種などスペックの低いパソコンでは,その処理が重荷になる可能性がある。それを確認するため,ちょっとした実験を行った。PCカード・タイプとEthernetコンバータ・タイプの無線LAN子機を用意し,そのときのCPUの負荷を測ってみたのである。

 利用したのは,比較的新しいノートPCとして東芝の「dynabook SS SX/490NK」(2006年秋冬モデル,CPUは1.06GHzのCoreSolo U1300,1GBメモリー),古めのノートPCとしてソニーの「バイオノート505エクストリーム」(2003年秋冬モデル,CPUは1GHzのPentim M,512MBメモリー)。これに無線LAN子機としてPCカード・タイプのNEC「Aterm WL54SC」や,Ethernetコンバータ・タイプのNEC「Aterm WL54SE」を接続し,ネットワーク・ツール「iperf」によりトラフィックをかけて,負荷を測定した。無線LANはIEEE802.11aを利用している。無線LAN親機は,NECの「Aterm WR8500N」を利用した。

表1●新旧ノートPCによる無線LAN利用時の負荷とパフォーマンスの違い
新旧2種類のノートPCに,各無線LAN子機を接続し,ネットワーク・ツールのiperfによりトラフィックをかけて,その際のCPU負荷を測定した。通信速度は負荷測定時の参考値。CPU負荷はWindows標準のタスク マネージャ,通信速度はiperfによるもの。
  dynabook SS
SX/490NK
バイオノート505
エクストリーム
無線規格 無線子機 CPU負荷(%)* 通信速度(Mbps) CPU負荷(%)* 通信速度(Mbps)
IEE802.11a Ethernet子機
(Aterm WL54SE)
2~16(9) 23.9 19~34(26.5) 25.1
IEE802.11a PCカード
(Aterm WL54SC)
18~49(33.5) 20.6 54~67(60.5) 23.2
Draft 11n
(デュアルチャンネル)
PCカード
(Aterm WL300C)
29~60(44.5) 103 64~78(71) 76.3
* ( )内は中央値
注:表中で示した通信速度は,ある程度のパフォーマンスがでるように設定しただけのもので,必ずしも各機器の最大性能を示しているわけではありません。

 表1の結果からわかるように,dynabook SS SX/490NKでEthernetコンバータを利用した場合ではCPU負荷が2~16%だったのが,PCカード子機では18~49%の負荷であった。Ethernetコンバータの場合は無線LANの処理はすべてコンバータ側で行うのでパソコンに無線LAN処理の負荷はかからない。このため,このCPU負荷の増加分(中央値で24ポイント分)が,無線LANの処理による負荷と考えてよいだろう。評価に利用したパソコンが携帯ノートのためスタンダードタイプのノートPCよりもスペックが劣る部分があるのは確かだが,無線LANを利用することで,負荷が20ポイント以上増えるとは思っていなかった。

 これが,古めのノートPCのバイオノート505エクストリームでは,19~34%から54~67%と中央値で34ポイント多くなる。同じ負荷でも,こちらの方が性能が低いので当然負荷に占める割合は増えてくる。だが,11aのポテンシャルを生かし切れないほど,パソコンの性能が低いわけではないので,実効速度に影響は出ていない。では,デュアルチャンネルのDraft 11nを利用した場合はどうだろうか。

 残念ながら,デュアルチャンネルのDraft 11nに対応したEthernetコンバータ・タイプの製品を用意できなかったので,PCカード・タイプの子機,NECの「Aterm WL300C」を利用した場合のみを測定した。

 ドラフト版とはいえデュアルチャンネルの11nはさすがに高速。それだけ負荷がかかるわけでdynabook SS SX/490NKのCPU負荷は29~60%となった。その際の実効速度は,きめ細かなチューニングをしていない割には高速な103Mbpsだった。平均的なCPU負荷は,50%を切っており,利用していてストレスを感じることはなかった。

 一方,ちょっと古いノートPCであるバイオノート505エクストリームでは,CPU負荷は67~78%にアップ。平均的には70%前後であり,結構高い負荷といえる。これだけ負荷が高いと,ちょっと重めのアプリケーションを利用しようとしただけでストレスを感じることだろう。

 だが,ここで注目してほしいのは,CPUの負荷だけではない。実効速度が76.3Mbpsだったことだ。より性能の高いパソコンでは,より高速な結果が得られたかもしれないので,dynabook SSがデュアルチャンネルのDraft 11nのパフォーマンスをフルに発揮できているかどうかはわからない。だが,dynabook SSの103Mbpsよりも約25%も実効速度が遅いことから,バイオノート505エクストリームが,デュアルチャンネルのDraft 11nのパフォーマンスを生かし切れていないとみることはできるだろう。

 では,どんなパソコンなら大丈夫なのかが気になるところだ。無線LAN機器にも細かな要求スペックが記載されていないので,残念ながらスペックの最低ラインを示すことはできない。ただ,CPUについては,CPU性能が高い方がよいことは実験結果からも明らかで,デュアルコアCPU以上なのが好ましいと思われる。だが,それだけで判断してはいけないようだ。

 なぜなら,バイオノート505エクストリームの結果から,CPU負荷が100%に達していないにもかかわらず,実効速度はdynabook SSほど伸びなかった。このことは,CPU性能以外の要素がネックになっていることを示しているからだ。おそらくカードバスなどのノートPCの内部バスがボトルネックになったと思われる。

 この部分を見分けるにはどうしたらよいかというと,あるメーカーに聞いたところ,1つの目安はギガビットイーサやPCI Express/Express Card対応であることなのだそうだ。これらのインタフェースは高速な通信速度が求められるので,結果的に内部バスの性能が高いことが多いからだ。今回の実験でも,dynabook SS SX/490NKはギガビットイーサ対応だったが,バイオノート505エクストリームは100BASE-TXまでの対応だった。もちろん両方の条件をクリアできれば,大丈夫と言い切れるわけではないが,判断材料の1つと考えてもらいたい。

 もっとも,パソコンによって無線LANの性能が生かし切れないときがあるといっても,11a/gからデュアルバンドのDraft 11nに乗り換えれば,高速になるのはほぼ間違いない。将来パソコンを買い替えたときに,性能がフルに発揮できればよいという考えれば,今のパソコンのスペックをそれほど気にする必要はないのかもしれない。

■変更履歴
ドラフト版のIEEE802.11nについて表現が不正確でしたので,「ドラフト版のIEEE802.11n」および「Draft 11n」としました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/01/17 20:30]