「Safari」がケータイ・ブラウザの新標準?

 パソコン用OSを搭載した新ケータイの最大の特徴は,いつでもどこでもWeb上の膨大な情報を気軽に閲覧できることだ。ここで問題になるのが,Webブラウザの使いやすさと互換性である。実際,これまでのケータイ用フルブラウザやPDA用OS搭載のスマートフォンではいくつものブラウザがあり,Webページの製作者がそれぞれに最適化しきれずに,使いにくさがあった。

 このWebブラウザの分野でも,iPhoneとAndroidは大きな波を起こそうとしている。実は両製品は,同じWebブラウザ技術を採用しているのだ。AndroidのWebブラウザは「WebKit」と呼ばれるソフトだが,これはiPhoneのWebブラウザ「Safari」のオープンソース版である。最近,「WebKit」は,フィンランドのノキアもケータイに採用し始めている。さらに,Androidケータイを作るアライアンスには,LG電子,サムスン,モトローラが加入。世界シェアを寡占する5大メーカー(ノキア,サムスン,モトローラ,ソニー・エリクソン,LG電子)のうち4社が採用することになる。

 つまり,パソコンの世界のWebブラウザでは,米マイクロソフトのInternet Explorerが圧倒的な地位を占めているが,ケータイの世界ではWebKit/Safariが,今後,支配的な地位を持つ可能性が高い。Webページを製作する側も,Internet ExplorerとWebKit/Safariの両ブラウザに最適化することになるだろう。

Androidはケータイ業界のWindowsになる

 Androidはメーカーの壁を越えたケータイの共通規格を作り,ハードメーカーがAndroid規格に対応したハードウエアを用意し,ソフト開発者はAndroid規格に対応するソフトを開発すれば互換性が取れるようになる。さて,これと似たような製品をご存知だろうか?

 実はグーグルは,パソコン業界における「Windows」と同じことを,ケータイの世界で実践しようとしているのだ。パソコン業界ではハードもソフトもWindowsに対応させることで,開発が楽になり,多くのメーカーが分業体制を取れるようになった。同じようにAndroidという共通プラットフォームに対応することで,各社が新しいケータイを開発しやすくなる。

 一方,アップルのiPhoneは別の道を歩む。1社でOS,ハード,アプリケーションまで開発して,全体としての調和や洗練さを磨こうという戦略だ。これもまた,パソコン業界でアップルがMacで採用した戦略と同じ。つまり,WindowsとMacというパソコン業界と同じ図式が,ケータイ業界でもAndroidとiPhoneで生まれることになる。

 パソコン業界と異なるのは,これまでのケータイがAndroidとiPhoneにすべて置き換えられるわけではないということだ。どちらも,パソコン・ユーザーを主ターゲットに開発した技術であって,老若男女誰にでもお勧めできるケータイになるとは思えない。ただし,従来型のケータイを使っていた人々の間でも,徐々に操作性のよいパソコンOSケータイに移行する人が増えてくるはずだ。大人気だったMDプレーヤをiPodがじわじわと置き換えていったように,今後,徐々にパソコンOSケータイが勢力を広げ,新しい主流になる可能性は十分にあるだろう。

 さて,ここで気になるのがiPhoneとAndroidの関係である。1990年代のMac OS対Windowsのように,し烈な争いを繰り広げるライバルになるのだろうか。筆者は,表面的にはそう見えることはあっても,かつてのような不毛な争いをすることはないと考えている。

iPhoneショック
日経BP社,2007年12月20日発行 264ページ,1680円(税込み)

 グーグルのCEOであるエリッック・シュミット氏がアップルの社外取締役を務めるなど関係の深い両社なら,一部では競合しながらも,ケータイのデファクト・スタンダードを作ろうという計算があるのではないだろうか。たとえiPhoneにどんなに人気があっても,それ一つですべての市場を独占できることはない。iPhoneを引き立たせるためにはむしろ,好敵手がいた方がよいはずだ。両者は一部では競合しつつも,規格として共通化した方がよい部分,例えばグーグルの本業に深く関わるWebブラウザの部分は共通化し,それなりに自分の影響を及ぼせる技術をデファクト・スタンダードにしていこうとしているのではないだろうか。

 2008年はこうしたパソコンOSケータイの台頭をはじめ,ワイヤレス・ブロードバンド技術の登場など,ケータイ業界に大きな変化が訪れ,メーカーなどのケータイ関係者にとっても正念場となる1年だ。激動のケータイ業界において,アップルのiPhoneやiPodの開発アプローチは,よいヒントになるはずだ。そこで,これまでの連載に大幅加筆した単行本『iPhoneショック』を出版することになった。興味のある方は,ぜひ手に取ってみてほしい。


林 信行(はやし のぶゆき)
ITジャーナリスト。1980年ごろからアップル社の動向に関心を抱き,1990年から本格的な取材活動を始め,その技術的取り組みやモノづくりの姿勢,経営,コミュニティづくりなど,多方面にわたって取材を続けてきた。Mac雑誌2誌のアドバイザーを経て,現在は日本国内に加えて米国,フランス,韓国などの海外メディアにも記事を提供している。アップル以外では,グーグルをはじめとする検索市場の動向,ブログやSNSの動向についても2001年ごろから記事を書いている。主な著書に『アップル・コンフィデンシャル 上下巻』(アスペクト刊/共著),『ブログ・オン・ビジネス 企業のためのブログマーケティング』(日経BP社/共著),『mixiの本』(アスペクト刊/共著)などがある。

この先は会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら