唯一、論文形式で受賞したのが、読売新聞東京本社を代表とする「ユーザー要求を引き出す分析手法の研究」だ。近年、大きな課題になっているシステム構築の上流工程であるユーザー要求段階で、どうやって真のニーズを引き出すかというテーマ性と実現性のバランスが評価された。

IT Japan Award 2007

 「ユーザー要求を引き出す分析手法の研究」は、富士通のユーザー会であるFUJITSUファミリ会LS研究委員会分科会が、1年をかけた研究をまとめた論文だ。読売新聞東京本社制作局技術一部の武田臣司主任をリーダーに、15社15人が参加し、06年3月に発表した。

 論文のテーマは、システム構築の上流工程である要求定義をいかに確かなものにするか。システム構築の成否は、上流工程、なかでもユーザー要求をどう定義するかにかかっているとされる。ベンダーへの“丸投げ”体質を改め、本当に必要なシステムを作るために、多くのユーザー企業が要求定義力の強化に乗り出している。要求に潜むあいまいさを排除することが、下流工程のシステム開発品質を高めるからだ。

 本研究では、その要求定義の精度を高めるために、ユーザーの要求をうまく引き出すための新しいフレームワークを開発した。

 フレームワークを使って、仮想のシステム開発プロジェクト「交通費精算システムの開発」に適用してみたところ、開発に必要とされる本質的な要求定義を聞き出せた数が、フレームワークなしで定義した場合と比べ、20%上回った。加えて、ヒアリングの過程では、「人事システムと連携させたい」とか「経理担当者を1人削減したい」など、交通費精算システムとは直接関係しないものの、全体最適につながる情報が聞き出せることが分かった。

図1●有効性を検証する仮想プロジェクトでは聞き出すべき要件数が20%アップした
図1●有効性を検証する仮想プロジェクトでは聞き出すべき要件数が20%アップした
入念な準備によって、聞くべき人に、聞くべき質問を正確にヒアリングできるようになる

人に注目をしたフレームワーク

 開発した新フレームワークは、要求定義において3つの点に着目している。第1は「人に焦点を当てる」こと。ヒアリングの準備段階で、アンケート結果からプロジェクト・メンバーの人物タイプを「コントローラ(行動的)」「プロモータ(アイデア屋)」「アナライザ(慎重)」「サポータ(援助好き)」の4種類に分類。「人物組織相関図」などとともに、誰がどういう役割を担っているかなどを明確にし、ヒアリングでは誰に何を聞くかといった戦略を考える。

 第2は、情報を「聞く」のではなく「引き出す」という点だ。内容に漏れがないかをチェックしやすくする「ヒアリング・シート」、聞き出し方をまとめた「ノウハウ集」を作成。例えば、プロモータ・タイプの人には、最初に好印象を与え、協力関係を築く。次に単刀直入に主旨を説明するのではなく、最終成果や将来像などから説明する。最終的には、あいまいな質問は避け、定量的な表現で質問をするべきだ、といったヒアリング・アプローチを予習しておく。それにより、ヒアリング結果の成果が大きく違ってくるという。

 第3の注目点は「情報の収集方法」である。要件分析で得られた内容を業務フローとして一度可視化することで、ユーザーの納得感を得られるようにしている。例えば、プロモータ・タイプには、視覚に訴えかけられる資料をベースに、最終的な合意にまで進める。

 一連の手順は、紙ベースやExcelなどの表形式のファイルベースで進めることも可能だが、研究ではもう一歩踏み出した。フレームワークに沿った作業ができる専用Webツール「楽ラクシステム(仮名)」を開発した。同システムでは、フレームワークに沿った質問事項を入力するとその裏側で、必要なテーブルに情報が書き込まれていく。手順を標準化しているため、進捗状況や不足している情報などが明らかになりやすいメリットがある。

 フレームワークの開発過程で、IT担当者にはコミュニケーション能力が、いかに重要な鍵なのかが分かったという。

●応募案件のプロフィール
案件名 ユーザー要求を引き出す分析手法の研究
稼働時期 2006年3月LS研年次大会2006年度
協力ベンダー 富士通
概要 システム構築における要求分析のフレームワークとして、コミュニケーション技法の活用と、人のタイプや優位な感覚に合わせたアプローチ手法を体系化した
出典:日経コンピュータ特別編集版 2007年7月23日号 42ページより
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。